鬼白小説 -短編-
□賭けの代償は
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「じゃあ、鬼灯。賭けようか」
また始まりましたよ。
白澤さんの賭けが…
ー賭けの代償はー
「またやるんですか?大体貴方、この前わたしに負けたばかりじゃないですか」
地獄まで来ていた白澤を送るため、極楽満月の前まで来た鬼灯。
そこで、また白澤が賭けを申し込た。
「それはそれ。じゃあ、今から極楽満月から出てくるのが男か女か、でどうだい?」
「代償は?」
「勝ったほうは、負けた相手を好きに使っていい。つまり、奢らせても、パシってもいいってこと。僕は男に賭けるね」
「では、わたしは女性に賭けましょう」
しばらく待っていると、極楽満月の扉が開き、人影が現れた。
「あ…」
「わたしの勝ちですね」
扉から出てきた人影は女性。
女性は白澤を見つけるなり、こちらに駆け寄ってきた。
「白澤様!」
「早上好。おはよう。久しぶりだね…」
「ふっ、日頃の貴方の行いがいけないのですよ。では、わたしはこれで。今日の午後、またこちらへ参ります」
「え、何時だよ」
「仕事がいつ終わるか分からないので、神獣らしく大人しく待っていてください」
「なっ、どこにも行けないじゃねーか!」
白澤の悲痛な叫びは桃源郷にこだまし、鬼灯の姿は見えなくなった。
「白澤様。何のお話だったの?」
「いや、なんでもないよ。君は午後になったら帰りな。命が危ないから」
そうして、彼女と話をして、昼食をとり、漢方の材料を調合するなどして過ごしていると、いつの間にか時計は6時を刺していた。
アイツ…まだ来ないのかよ。
やることもなく、ぼーっとしていると、桃タローくんが話しかけてきた。
「あの、今日は花街には行かないんですか?」
「いや、鬼灯が来るから、待ってなくちゃいけないんだよ。聞いてよ、桃タローくん!何時なのかも教えずにあのヤロー、ずっと待っとけって言うんだよ!?酷いよね」
「はぁ…」
それでも律儀に待っている白澤様って…と思う桃太郎であった。
「じゃあ、俺、夕食何か適当に買ってきますから、白澤様は待っててください」
「うん。ごめんね、桃タローくん」
それから、桃太郎が戻ってきて、夕食を食べ終わった時に、時計は8時を告げていた。
しかし、鬼灯はまだ来ない。
そして、遂に時計の針が10時を指す。
「桃タローくん、もう寝ていいよ」
「え?白澤様は…?」
「僕はもう少し待ってみるよ」
頬杖をつきながら、ぶっきらぼうに言う白澤。
目線を変えれば拗ねているようにさえ見えてくる。
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみー」
ひらひらと手をふる白澤を仕事場に残し、桃太郎は自室へ行く。
白澤様って、どんだけ鬼灯さんのことLOVEなんだろう…
そんなことを考えながら桃太郎は眠りにつくのだった。
桃太郎と分かれてから30分後、極楽満月の扉がコンコン、と叩かれた。
「白澤さん。今着きました。開けてください」
いつも通り開ければいいのに、なんで僕が開けなきゃいけないんだよ…。
ガラリと戸を開くと、目の前に鬼灯が立っている。
「扉くらい自分で開けろよ。ていうか、今何時だと思ってんだよ!」
「10時半ですが?」
「そうだよ!10時半だよ!この時間は、夜っていうんだよ!」
「午後ともいいますよね?」
まあ、そうなんだけどさ…と頭を抱える白澤の前に、水音のする瓶が突き出される。
「え?」
よく見ると、鬼灯の両手にはそれぞれ1本づつ、酒瓶が握られていた。
「今宵は月が綺麗ですよ。たまには2人だけで静かに飲みませんか?」
白澤と鬼灯、2人で並んで、極楽満月の玄関の前に腰掛ける。
思いのほか、月がとても大きく輝いていて、驚いた。
久しぶりの外の様な気がする。
暖かくて、たまに吹く風も心地よい。
草の上の感触も、何とも言えない穏やかな空気にさせてくれる。
お互い、酒は注ぎ合いはしないが、2人で月を眺めながらのんびりとした時間を過ごす。
すると、草の上についていた白澤の手の指に、鬼灯の指が絡まる。
「貴方、ずっとわたしを待っていたんですか?」
「当たり前だろう?お前が待っとけと言ったんだから」
「もしわたしが今夜、ここに訪れていなかったとしたら?」
「明日、地獄に殴り込みに行ってたかもな。それに、まだお前が遅く来たこと、許してねーから」
鬼灯は無言で酒を啜る。
白澤もそれにつられ、酒をくいっと飲んだ。
「そういえばさ、お前、これが賭けの代償ってことでいいの?」
「はい。たまにはあなたとこういう事をするのも悪くないと思いまして」
そんなこと言われたら、
お前が遅く来たこととか
全部許しちゃうじゃないか…
「ついでに、白澤さん」
「ん?なに?」
「この酒の請求、あなた宛にしておきましたから。よろしくお願いします」
「…この野郎」
とても叫ぶ気持ちではなく、ポツリと呟く白澤の顔は、とても幸せそうに笑った。
*fin*