届かない気持ちと、繋がる体。

□古いビルの廊下で。
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彼氏も、好きな人もいない。

だけど。

求めてくれる人なら誰とでも寝
る。

その時だけでいい。
相手が私を必要としてるなら。

べつに相手がやりたいだけでもいいし、愛情も、情もなくて構わない。

私がしたくてそうしただけで、遊ばれたわけでも、捨てれたわけでもない。

抱かれた人たちはそうやって、私の上を通り過ぎていく。


そんな風に淡々と毎日を過ごしてた。


バイト終わりで空を見上げたらなんだか家に帰りたくなくなった。

寂しいわけでも、人肌が恋しいわけでもない。

ただ、家にまっすぐ帰るのがいやで、遊んでくれる相手をケータイで探してみる。

平日休みで、まだ起きてて、夜更かしが大丈夫で、趣味の合う友達…。
消去法で残ったのはすばる。


急な連絡にあっさり



「ええよ、暇やし。」

「いいの?明日仕事は?」

「昼からやねん。」

「じゃあ、いく。」

「おん。わかった。」

その軽さがいい。

周りの友達にはあんまり評判良くないし、人見知りだし、ちょっと気難しいとこもあるけど。


一度仲良くなると、なんでも受け止めでくれる懐の深さは他の人にない魅力だと思う。

そんなことを考えながら繁華街から少し離れた古いビルに着いた。

エレベーターに乗り9階のボタンを押す。

恐ろしくゆっくり上昇すエレベーター。

古いから仕方ないけど、毎回この速度にに慣れる日はきっと来ないだろうな…と確認してしまう。


私を送り届けたエレベーターは扉を開けた。


すばるの部屋まで外廊下を歩く。雨あがりでコンクリート床が湿っていて、空気がひんやり感じる。

遠くからすばるの声がする。




「ほんま、悪いな。」

「ええって。女の子来るならしゃーないやん。夜はこれからやし(笑)」

「アホか(笑)。そんなんやあらへんわ。」

直角の廊下を曲がると私が訪ねるはずの部屋から1人の男の人が出てきた。


私がその部屋へ向かっているのに男性は気づき、声を小さくしてひととおりの挨拶をすませすばるの部屋をあとにするとエレベーターの方へ歩いてきた。


すばるから借りたのであろうレコードが入ったバッグを脇に抱え、ニューエラのキャップ、革ジャン、デニムにニューバランスの996。

スキニーのデニムが余るほどの細身。

目が合い、お互いなんとなく会釈をした。


日本人離れした彫りの深さと、黒い肌、長いまつ毛と泣きぼくろが印象的だった。

彼が通り過ぎると革ジャンと香水とタバコが混ざった風がふわりと通り過ぎた。

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