サンホラ
□二人の物語
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まるで昨日のことのように話してくれた。
「そうね…。あれは、冬の朝だったわ…」
病床についた母の弱い笑顔は、幼い僕にも、なんとなく分かった。
冬の朝…。
暖かい声を聴いた気がした。母さんの声。
「手を差し出すとね、ギュッて握りしめてくれたの」
天使の金管が聴こえた気がしたのよ、と母は楽しそうに笑う。
「…母さん、何でもない普通の人生だったんだけどね、」
苦笑いして、息を吸い込んだ。
「アナタを産めたことが、私の誇りだった」
「ホコリ」というまだわからない単語に、僕は首を傾げながら、枕の上の母さんの頬に、小さな手を当てた。
「ぼく、みんなにママンをじまんしてるんだよ」
会話は噛み合っていなかったが、母さんは嬉しそうに僕の頭を撫でた。
「ねぇ、おはなしのつづきは?」