Gift
□smile.smile.
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……苛々する。
―――smile.smile.
「獄寺っ!!ごめんな、部活長引いちまって」
「…別に」
放課後、人気の無い廊下をふたり、肩を並べて歩く。
「こんなに遅くなっても待っててくれるなんて、獄寺優しいのな!」
にこにこと、それこそ効果音がしそうな位の笑顔で俺に微笑みかけてくる、野球馬鹿。
「うるせぇ、俺はてめーなんざ待っちゃいねぇ」
「うんうん、そーなのな」
にこにこにこにこ。うざいを通り越していっそ清々しい程の笑顔。
……その笑顔を見ていると、苛々する。
付き合った当初とか、それこそ出会って間もない頃から山本の笑った顔にどきっ、としたりしていた。
だけど今はその顔を見るたびに苛々が募る。こんな気持ちになったのはここ数日で、今だかつて味わった事の無いこの感情に、正直戸惑っていた。
「獄寺?どうかした?」
にこにこ、その笑みが嫌いだ、どうしようもなく苛々してしまう。
「……てめーの顔見てると、むかつく」
「え?なにそれ?」
ああもう!その顔が嫌だって言っているのに!にこにこと、爽やかな笑顔を向けられる度に、何だか心臓がぎゅっ、となって、苛々する。
「だから!そのへらへらした顔見てると苛々すんだよ!!」
「なんで?」
にっこり。こいつは嫌がらせのつもりだろうか、さっきからずっとにやにやと笑いながら俺の方を見てくる。
「し、知るかよそんなの!だけどなんか苛々すんだよ!!てめーいつでもどこでもそうやって笑いやがって!」
「なんでー?笑うと元気になれるんだぜ?」
なんでこんなに苛つくのか自分でも分からないのだが、むかつくものはむかつく。とりあえずこいつの笑顔に問題があるのは確かだ。
「っ、取りあえず、てめーはもう笑うな!!むかつくんだよ!」
「なんでむかつくか教えてくれるまで止めない」
「……なんか、女子とか、他の奴らと喋ってる時と、俺と喋る時、おんなじ顔して笑ってるから、むかつく……んだと思う」
嘘ではなかった。山本が他の奴に笑いかけていると機嫌が悪くなったし、他の奴らに見せる笑顔と同じものが自分に向けられていると思うと、更に苛々したから。…ただ、これが理由になっているのかは分からない。初めてなのだ、こんな感情を知ったのは。
「獄寺、」
「ん」
「それな、ヤキモチなのな」
「……やきもち?」
「そーなのな、獄寺、嫉妬しちゃったのな」
「し、嫉妬なんかしてねぇ!!」
不意にぎゅうと抱き締められて唇を奪われた。いきなりだったので目を閉じることも出来ずに山本の顔を間近で眺めてしまう。
ゆっくりと唇が離れて、お互い見つめ合う形になった。
「獄寺がヤキモチ妬いてくれてすげー嬉しかった、ちょっとだけ、不安だったのな、いっつも俺ばっかり獄寺に好きって言って、気持ちを押し付けてんじゃねぇのかなって」
ふわりと山本が微笑んだ。
いつものにこっとする笑い方ではなく、優しく包み込むような、温かな笑みだった。
その笑顔を見た瞬間、ああこの顔を見たかったのだと確信した。俺だけが見ることの出来る、山本の笑顔。
「…俺以外の奴の前でそんな顔見せんなよ」
「分かってるって!」
もう一度優しく微笑んだ山本を見ていると不思議と素直になれる気がして、珍しく自分から手を差し出した。
(……でもなんで数日前から突然、山本の笑顔にむかついたんだろう…?)
(……獄寺に向ける笑い方変えただけでここまでヤキモチ妬いてくれるとは……またやろうかな)
end
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