Gift

□きみは北極星
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夜は、人が、あんまりいないから良いだろと不安げに、でも期待を込めた電話の向こう側にいる声の主の顔が目に浮かぶようだった。
そいつの真っ黒な瞳に星が映ったらさぞかし美しいだろうと、そう思って俺はそいつの願いを聞き入れたのだ。
星が、綺麗な夜だったから、




+++きみは北極星



「スゲー、星いっぱいな」

「……おう」



ちくちくと冬の冷たい空気が俺の肌を刺している。
気持ち悪いくらい綺麗に晴れ上がった空にはこれでもかというほど星が散りばめられていて俺はため息をついた。いつも見ている空じゃないみたい、なんて言わねえけど。
そういや山本と一緒に星を見るなんて初めてだった。だから余計綺麗に見えるのかも、なんてやっぱ絶対言わねえ。
隣でスゲースゲー言っている山本の瞳にはキラキラと星が映っていて、俺は少し嬉しくなってまたため息をついた。白い息が意思を持ったかのようにふわふわと漂って、消えた。


「俺、星座分かんねえからなあ」

「俺も」


知らねえ、そう呟くと山本はいきなり、あ、でも俺、北極星は分かるぜと呟いた。俺を見てへへ、と笑う。白い息がやっぱりふわふわと漂っていく。

「ほっきょくせい?」

「うん、獄寺知らない?」


山本が知っていて俺が知らないことがあるのに少しむっとした。渋々知らないと頷くと山本は得意気に話した。

「あれな、北のめじるし」

「めじるし?」


うんうんと頷いて山本は空を指差した。


「あれ、いちばん光ってるやつ、北極星なのな」

「めじるしなのか、あれ」

「うん、北にあるから漁師とかがめじるしにしたのな」

「へえ」


思わず物知りだなお前、と呟くと山本は少し頬を染めながらへへ、と鼻を掻いた。
山本の真っ黒な瞳に北極星が映っている、きらきらしている。その瞳が横を向いて俺を映した。山本の黒い瞳に俺の顔が映る。
もしかして俺が山本の瞳に映った星を見ていたことがばれたかもしれない、と思って山本から目をそらす。


「獄寺もめじるし」

「は?」


せっかく山本から目をそらしたのにまた山本を見てしまう。山本はじっと俺を見つめている。なんだか気恥ずかしい。
俺はじめて分かった、獄寺もめじるしなのな、と山本は俺を見て笑いながら言った。

「わけわかんねえ」


めじるしは北極星なんだろ、と山本を睨むと山本は俺の頭をがしがしと撫でた。


「獄寺の髪スゲー綺麗な色してんだろ、北極星よりずっと見っけやすいよ」


頬が熱い。山本の瞳に映っているのは俺、めじるし…


「…なんのめじるしだよ?」

なんの役にもたたないめじるしなんていらねえ、ちょっとムカついた。
そんな俺を見て山本は、んー、とちょっと考えて、獄寺の!と言ってニッと笑った。
わけわかんねえ、と呟くと山本はへらへら笑いながら手、つないでいい?と言って俺の手を握った。山本の手は温かい。
いきなりなんだよ、返事聞く前に手、握ってんじゃねえかよ、と思った。でもいいか、なんて考えた俺はちょっとおかしいかもしれない。
でも、そうだ、こいつは人がいないからいいだろと言って俺を誘ったのだ。俺がこの手を振りほどく理由は、ない。


俺が何も言わず黙って握られた手を握り返したからだろう、山本はこれ以上ないほど優しく微笑んで、キスをした。





end

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