Gift

□歪な世界のただ一つのヒカリ
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「あれ、獄寺寝れねえの?」

「…うるせぇ」

聞こえる声はあいつの声のようで、でも記憶の中の声よりも少し低くなっていたからそいつの声なのか俺にはわからなかった。
今よりもずっと背が伸びてそのどこかに哀愁を漂わせるそいつは紛れもなくあいつとは別人で、でもあいつの影を落とすそいつを俺は山本と呼んでも良いのかをまだ決められないのだった。




+++歪な世界のただ一つのヒカリ



「ツナは?」

「十代目は…泣いて、いらっしゃった」

「…そっか、そうだよな、いきなり十年後に来て混乱してるよな」


はい、と目の前に置かれたのは温かいココアで、俺はそんなガキじゃねえと言おうとしてそのカップを置いたそいつを見上げると、そいつは俺に向かって笑いかけてきた。

「コーヒーじゃまた眠れなくなるだろ?」

「…てめえはコーヒー飲んでるじゃねぇか」

「俺は寝ないからコーヒーでもいいのな」


口調は十年前のそれなのに話している内容は明らかに自分がマフィアだと暗示していて、俺は何度目かのため息をついた。


「なんでマフィアになってんだよ」

「獄寺と一緒にいたかったのな」

「んな理由で、」

「俺にとってはそれで十分だ」


そいつはそう言うとコーヒーを飲んだ。ブラックなんて飲めなかったくせに。
俺のせいでこいつをこちら側の世界に引きずり込んで、親父も殺されて、こいつにこんな顔させるようにして、それを十年後の俺は許したのか―――?


「なんで、」


声が震えた。まだ一口も飲んでいないココアに映った俺の顔は酷く歪んで見えた。ココアの中から見たこの世界はきっと歪みきっていて、俺らはその歪んだ世界をまた歪んだ瞳で見ることで、世界を無理矢理にまっすぐにしようとしている、のだ。


「獄寺、」


俺の肩に置かれた手のひらは俺の記憶よりも幾分か大きくて、まるで別人のそれのように感じた。

「あのな、獄寺」

そのままそいつは俺に覆い被さるように抱きしめてきた。それもまた、十年前とは違ってそっと、壊れ物を扱うような抱きしめかただった。

「俺、ずっとずーっと獄寺のこと好き」

だから、守りたくて。
そう続けたそいつの声も震えていた。こいつだって不安なのだ、十年前から変わらないそういう性格。


「やま、もと…」


俺を抱きしめているその体温だって、ちっとも変わっていないのに。何故気付かなかったのだろう。


「山本……」


うわごとのように名前を呼び続ける、今はそいつを山本と呼べる事実にすがっていたかった。


すっかり冷めてしまったココアに照明の光が映っていた。その光はココアの中の歪んだ俺たちを照らしているようにも見えた。





end
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