Gift
□君でしか溶かせない
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さみい。
そう言うとそいつは笑いながら俺を腕の中に閉じ込めた。じわじわと俺のなかにあたたかいものがしみこんでくるような感覚。
そのなにかがしみこんでくる感覚がすきで俺はそっと目を閉じた。
+++君でしか溶かせない
「……あつくるしい」
「抱きしめてって言ったのは隼人だろー」
「…言ってねぇ」
そいつの家に泊まるのはもう日常だった。男は診ないと言いながら俺の体を心配して、晩飯食っていけと俺を家に連れ込んで晩飯食って帰ろうとしたら明日の朝もついでに、なんてずるずるずるずる同じことの繰り返し。
一泊が二泊になりそのまま、ずっと。
「…お前は何がしたいんだよ」
「別に?隼人の体を心配してやってるだけだ」
ちっこい頃はしゃまるーって可愛かったのになあと、にやにや笑いながらシャマルは俺を閉じ込めている力を強くする、息苦しくなったけれど不快だとは思わなかった。昔からずっとそうだった。
俺の体温が低すぎるのか、そいつの体温が高すぎるのかなんて分からないけれど俺とシャマルの間にあった体温の差が縮まっていく。
ずっとこのままならば二人とも同じ温度になっていくような気さえした。
確かに、心地よいのだ。
幼い時にこうして抱き締められるということがあまりなかったせいなのか、俺はまだ心のどこかでぬくもりを欲しているのかもしれない。人の、ぬくもりを。
「寝たのか?」
「…起きてる」
「寝ても良いからな」
「…別に眠くねぇ」
そう言いながらも瞼は重力に逆らえずに落ちていこうとする。こいつが温かいのがいけないのだ。
凍てついた俺のこころの奥のほうがじわじわと熱を持って溶けていくような気持ち良さにそのまま身を委ねてしまいたい。
だけどその一方で俺はまだ、恐れている。
「やっぱり眠そうじゃねぇか、寝るか」
「…眠くない」
小さな子供が駄々をこねているようだ。だけど寝てしまったらこいつの暖かさもなにもかもなくなってしまうような気がしていた。俺はそれがひどく恐ろしい。
「……朝まで」
「ん?」
「朝まで、こうしてんなら寝てやんねえことも、ない」
シャマルが笑いながら俺の首に顔を埋めた。首に息がかかって少しくすぐったい。
「寝ろよ、離さないから」
シャマルの言葉はひどく優しい。こいつは俺の一番欲しいものをいとも簡単に与えてみせるのだった。
目を閉じる。ふわふわと俺を包み込むような眠気に最後の抵抗、シャマルの背に腕を回す。
このまま二人とも溶け合ってなくなってしまえたらどんなに幸せだろうかと考えて、少し泣きたくなった。
end
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