お題
□02.空き箱
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※01.山盛りキャベツ の続き
「なあ獄寺ってば!中入れて!」
「嘘つきに俺の家に入る資格はねぇ!」
+++空き箱
着々と数を減らしていたキャベツがいきなり全部、消えた。勿論山本の仕業だ。
「てめえやることがセコいんだよ!」
「だって絶対間に合わねぇんだもんしょうがないじゃん!!」
どうやらあいつは俺が寝ていたり家にいない間にキャベツを少しずつ持って帰り、学校で育てているウサギやらなんやらにどっさり与えていたらしいのだ。(しかも並中だけではなく並盛にある小学校や中学校、幼稚園にまで行ったらしい)
そして今日、冷蔵庫の奥深くで腐りそうなキャベツを見つけた山本は強行手段に出て、一気に全部のキャベツを持って行ったのだ。
「まだ腐ってねぇよ!約束は破ってないのな!」
「……くそ、悪知恵ばっか働かせやがって」
渋々玄関を開けると山本はこれ以上ない程の笑顔だった。(あれ、そういえば俺、山本に合鍵渡してなかったか?)
「ごめんな、でもどうしても別れたくなかったのな」
「べつに別れる気なかっ…たわけないけど」
途中で失言に気付いた俺はえらいと思った。ぱああと輝いた山本の顔はみるみるうちに沈んでいった。馬鹿だこいつ。
ふと台所を見ると段ボールの空き箱があった。数日前まではキャベツがぎっしりだったそれは入れるものがなくて寂しそうに見えた。
空っぽ、だからか。
「なに、段ボールみてんの?」
急に黙り込んだ俺の視線の先を辿ったのか、山本が聞いてきた。どうした?なんかいた?いや、別になんでもない。なんとなく、見てた。
「なんかさー、段ボール空っぽで悲しそうなのな」
「え、」
「次は腐らせないくらいいっぱい買ってくるから安心してな」
「あ、ああ」
一瞬、考えてたことを読まれたのかと思った。けれど違ったからよかった。のだと思う。
「獄寺」
「ん」
抱きしめられるのは心地よい。空っぽじゃなくなるみたいだから。俺のなかのなにかが満たされていくような、感じがする。
「段ボール、捨てないとな」
「ん」
空っぽな段ボール。空っぽだった俺、でも今は空っぽじゃない俺。数日前まではいっぱいだった段ボール。今いっぱいな俺。
「なに考えてる?」
「変なこと」
「俺がいなくなったらとか、考えてる?」
「…いや」
ぎゅうと強く抱きしめられるのは心地よい。これは山本なりの慰めなのかもしれない。山本には俺の考えてることなんて全部分かっているのかも、しれない。
俺が抱きしめ返すのは珍しい。だから今日の俺は珍しい。
「今日の晩飯、なんだよ」
久しぶりにキャベツ料理以外が食べられると思った。嬉しくもなければ悲しくもなかった。でもやっぱり俺は今、満たされているのだった。
***
馬鹿なことはあまりさせませんでした。(段ボールに獄寺が隠れるとか考えてました)
お題に沿えていないですが、これにてキャベツシリーズ(←)おわり。