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□トワイライト
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「あ、獄寺!」

「…げ、」


あからさまに嫌な顔をして俺を睨み付けた獄寺は俺を見なかったことにしたらしい。くるりと来た道を戻っていく。
せっかく会えたというのに何も会話をしないなんてもったいない。そう思って俺は獄寺の後を追った。ガシャガシャと背負った野球道具が音を立てる。
獄寺は走って逃げたりはしなかったから俺はすぐに獄寺と並んで歩くことができた。
走って逃げなかったのは、俺が隣に並んで歩いても良いということなのかなあ。なんて思った。




+++トワイライト




休みの日に獄寺が外に出るのは珍しい。俺が起こさなかったら昼まで寝ていて、遅い昼食を食べて、また寝て……ってあれ?獄寺寝てばっか?
でも俺が獄寺の家に泊まりに行ったりした時はなんだかんだ言って俺に付き合って野球中継見たり俺の一方的な話に相づち打ってくれたり。意外に優しいやつなんだ、ということを最近知った。

とにかく獄寺がこんな薄暗い時間に外にいるのは珍しくて俺はそんな珍しい獄寺に会えたことを少し、喜んだりしていた。


「珍しいのな、いっつも家にいるのに」

「…別にいーだろ」

「あ、どこか行く途中だった?」

「いや、特には」


散歩かなあ、でも獄寺あんまりそういうのしないからなあ、と思って、やっぱり今日の獄寺は珍しいという結論に至った。


夕日はもうすぐ沈みそうだ。夏に比べれば日が沈むのはずいぶん早くなったと思う。それに寒い。
俺はさっきまで動き回っていたからまだそんなに寒さは感じないけど、獄寺はどうだろう。薄着だし大丈夫かなあ。
と、思って隣を見たら獄寺はやっぱり寒そうだった。
服の中に半分くらい隠れている獄寺の手を取ってあげたくなったけれど男同士でそれは嫌がられるかなあと思ってやめた。寒くない?と聞いたら別に、と返ってきた。俺のジャージを着せてあげたくなったけれど、やっぱり男同士だから駄目かなあと思ってやめた。そっか。と返したら獄寺はちらりと俺を見た後にああ、と呟いた。


日はどんどん沈んでいく。
さっきまで夕日に照らされてきらきらと光っていた獄寺の綺麗な髪とか、睫毛とかが暗闇に飲み込まれていく。

なんだかそれが寂しくて、俺はぼうっとしながら獄寺の髪とか、睫毛とかを見ていた。






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