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□サンタが来なくてもね
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A Natale con ituoi, a Pasqua con chi vuoi




+++サンタが来なくてもね




サンタクロースがいないことは小さい頃から知っていた。
屋敷には溢れるほどの本があった。幼い俺は暇さえあれば本を開いてはどうでもよい知識を詰め込んでいった。俺は絵本だけでは育たなかった。
サンタクロースは一度追放されていた。アメリカから逆輸入してきたようなものだと知ったその日から俺はサンタクロースにプレゼントをねだることをやめた。
サンタクロースにお願いしなくとも俺は欲しいもの全てを与えられていた。
サンタクロースよりも俺は魔女ベファナのほうをずっと信じていた。きっとこの世界のどこかには本当に科学だけでは表せないものがあると信じていた。

今はサンタクロースもベファナも、信じちゃいないが。

家を飛び出した後のクリスマスといえば売れ残ったパネトーネを安く買って一ヶ月ほど食いしのいだりもした。屋敷にいた頃に食べていたパネトーネのほうが数倍美味しかったけれども。

イタリアも冬は寒い。








「……ら、ごくでら…獄寺…」



「獄寺」



頭を撫でられている。屋上を通る冷たい風が頬を打つ。優しく俺の名を呼ぶ声にそっと目を開くと山本が俺を覗き込んでいた。


「おはよ、こんなとこで寝てたら風邪ひくぜ?」

「…平気だこれくらい」


寒さには慣れっこだ。
この寒さのせいだろうか、昔の夢を見た。寒くて、寂しい夢を。


「なあ獄寺」

山本が少し弾んだ声で俺に言う。少し赤らんだ顔で俺に微笑みかける。

「クリスマス、獄寺と一緒に祝いてえなーって、思うんだけど」



…思わないでほしいと切実に思った。


「…嫌だ」

「え?」


日本とイタリアの文化の違いは十分承知だ。だけど俺はどうしても誰かと過ごすクリスマスに違和感を感じてしまうのだ。
クリスマスを一緒に過ごすのは、家族でなければならないのだと、どうしても、


「なんで?獄寺、一緒にクリスマス過ごしてえって思わないのか?」
「思わねえな」
「付き合ってはじめてのクリスマスなのに?」
「んなの関係ねえだろ」
「関係なくないだろ、だって…クリスマスだぜ?一緒にケーキ食ったり、あ、俺寿司持ってくし」
「うるせえな」
「うるせえって…そんな、獄寺」
「いいか、もうこの話はなしだ、俺はお前とクリスマスは過ごさねえ、親父さんと一緒に過ごしてやれよ」
「ごくで、」


無視して立ち上がる。


「…正月くらいは空けといてやるから」


俺なりの、精一杯を山本は分かってくれただろうか。
皮肉なことに、山本の言葉は俺が閉めた扉によって遮られたのだけれど。





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