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□せかいのいろ
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「白と、緑」
「はあ?」
「俺の世界のいろは、白と緑なのな」
今日は金曜日。明日は休みだから山本は俺の家に泊まりに来てる。ここんとこ、ずっとそう。
せっかくだから勉強教えてくれよー、と言われたからテレビの前に勉強道具を広げて、でも結局勉強しないでぼーっとテレビを眺めてるのも、今では日常になりつつある。
こうしてテレビとか見てる時は特に喋ったりしないし、その空気も実はあまり嫌じゃなかったりする。
…じゃなくて、こいつは今、なんて言った?
「世界の色って何」
「白と緑だけで俺の世界は出来てんのな!」
「……なにそれ」
「ん?今ふと思ったのな」
世界の色?それってつまり光の三原色だろ?その三色で世界の色は出来てるんだよな…。三原色の中には白も緑もない。
何を、言ってるんだこいつは。
それを言おうと思って山本の方を向くと、キス、された。
一瞬、本当に一瞬だった。
「ななな、なにす」
「油断したのな獄寺!」
「い、いきなり、すんなよ」
「なんでー?キスして良い?って聞いたら獄寺いっつもいちいち聞くな馬鹿、って言うじゃんよー」
「そ、だけど」
「獄寺、まだ分かんない?」
「え」
いきなり山本が俺にがばあ、と抱きついてきた。
「うわっ、ちょ、なに、」
「んー、俺の世界は今獄寺色でいっぱい」
俺の髪に顔をぐりぐりと押し付けて山本が幸せそうに言った。
「白と、緑」
「獄寺の髪と、目の色」
「獄寺の、色なのな」
「だから」
今、俺の世界は獄寺でいっぱいになったのな!
顔に熱が集まるのを感じた。熱い、こいつはいつも恥ずかしい事ばっかり言う。
獄寺、すき、だいすき、と言いながらぎゅうぎゅうと俺に抱きついて離れない山本を見ていたら、なんだか俺もおかしくなったみたいだ。
「じゃ、あ、俺の世界は、真っ黒だ」
すると山本は俺からぱっ、と離れると目を見開いて俺の顔をじぃ、と見つめてきた。
さっきよりも更に顔が熱くなった。山本も、微かに頬を染めていた。
「獄寺ぁ!!」
またぎゅうと抱き締められた。でもさっきとは違って山本の顔は俺の胸に、つまり山本の頭が俺の目の前に。
俺らしくもないと思うけどさっきの山本を真似て俺は山本の頭に顔を埋めた。
微かに山本のシャンプーの香りがした。
「ごくでら?」
嬉しそうな山本の声がした。
俺は返事をしないでさっきよりも強く山本の頭に顔を埋めた。
世界の色を逃がさないように。
end
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