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□手を伸ばして、
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俺の肩にもたれ掛かる銀色の綺麗な髪にそっと触れる。
ぴくりと獄寺の肩が震えたが俺の手を拒むことはなかった。



――――――――手を伸ばして、




俺にとって獄寺は高嶺の花のような存在だった。どんなに手を伸ばしても触れられないような、万が一触れられたとしてもその不安定な足場を崩して俺の前から消えてしまうのではないかと思ってしまうような、儚く気高い花だった。


ああでも俺は見てしまった。ツナに笑いかける時とは違う、獄寺の笑みを。

ごく自然な、年相応に笑う君の顔を。


その笑みに、例えるならば花の甘い甘い蜜に俺は捉えられてしまった。手が届かないと知っていても、伸ばさずにはいられなかった。

「獄寺」

「んー」

「今日は甘えたさんなのな?」

「たまにゃ良いだろ」

「俺は毎日でも良いけどな」

「それはやだ」


そう言いながらも微笑を絶やさない獄寺。俺にしか見せてくれない獄寺の笑った顔。




高嶺の花だと思っていた獄寺は、とても寂しがりだった。それを口に出すことはなく、だけど酷く孤独を嫌っていた。なのにいつも独りでいようとしていた。なんだかそれは矛盾しているような気がした。

傍に近づくにつれ、獄寺のいろんな面が見えた。獄寺に好きだと伝えた時に、獄寺は困ったように、分からないと呟いた。好きという感情がよく、分からないのだと。

だから俺は、獄寺に好きを沢山あげる事にした。


気持ちを伝える事はちょっと難しい。気持ちを形に出来れば良いのだけれど。



形にならなくても、ちょびっとづつ、獄寺に俺の好きが伝わっていった。好きというのは、守りたくて、ずっと一緒にいたくて、一緒にいるだけで心臓がうるさくなって、どうしようもなく愛しいということ。


「獄寺、寝ちゃった?」

「……いや、起きてる」

「寝ても良いのな」

「肩、痛くなるだろ」


そして相手のことを四六時中考えてしまうということ。


「獄寺、すき」

「ん、俺も」



肝心の好き、を口に出さない所が彼らしい。でも獄寺は好きということを知った。


手を伸ばして獄寺を抱き寄せる。すっぽりと俺の中に収まる獄寺。


こうすれば、


「こうすれば、肩痛くならねぇよな?」


俺の腕に包まれた獄寺が綺麗に微笑んだ。




end
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