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□言えたらいいのにね
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「にょおん」

「お、瓜」


今日はご主人の誕生日らしい。誕生日くらいは引っ掻かないでいてやろうと思った。だから足に噛みついた。


+++言えたらいいのにね



「いってぇ!!!何すんだ瓜!」

「にょ」

間違えた。引っ掻くのも噛みつくのも無しにしないとご主人の機嫌が悪くなる。それより瓜は今日やることがあるのだった。

「にょにょにょ」

ご主人のズボンの裾を引っ張る。ご主人は何してんだコイツ、って目で瓜を見ている。思いっきり引っ掻きたくなったけれど我慢。


「なんだよ瓜、どっか連れて行って欲しいのか?」

「にょおん」


ご主人が瓜を抱き上げる。抵抗もしないでされるがままになっていたらご主人が心配そうな顔をした。

「…どうした?具合でも悪いのか?」

「…にょ?」

瓜がせっかく黙って抱かれているのに具合が悪いのかだなんて。ご主人はとても鈍感だ。きっと今日が何の日かも覚えていないのだろう。
瓜を抱き締めている腕に爪を立ててみるとご主人はいってぇ!と叫んで瓜を落とした。


瓜はご主人みたいに床にどしんとしりもちをついたりはしない。ひらりと床に降り立つとまだ床に座っているご主人の頭の上に乗った。


「なんなんだよさっきから」

「にょおん」

ご主人のさらさらの髪は実はとても好き。なんとか潜り込んでまたにょおんと鳴いてみたらご主人も悪い気はしなかったのか、瓜の頭を優しく撫でてくれた。
でもご主人は髪型が崩れるのが気に入らなかったらしく瓜を頭から下ろして先ほどのように抱いた。瓜は少し暴れた、けどそうだった、今日はご主人に痛いことしないんだった。

「お前なあ…」

「にょにょ、」


ご主人にも瓜の言葉が伝われば良いのになあ。瓜は人間の言葉は分かるのに、ご主人には瓜の言葉が分からないなんておかしいよなあ。言葉の一方通行だ。理不尽だ。

「なんだよ瓜。ふてくされた顔して」

「にょー」

だって言葉が通じればご主人にちゃんとおめでとうがいえるのだ。一年に一度の大切な日をお祝いすることさえできないなんて。


「…にょおん」

「なんだお前、俺の誕生日祝ってくれてんのか?」

「……にょ、」


にょにょにょ、と無駄に連呼してしまった。もしかしてご主人、瓜の言ってることが分かるようになった?

ぐりぐりと少し乱暴に頭を撫でられる。ご主人の照れ隠しだ。

「お前なんだかんだ言って俺のこと好きだろ」

「………にょー」

じろりと睨むとご主人は少し怯んだ。その隙に瓜はご主人の髪の中へ飛び込んだ。ご主人は馬鹿だ。意地悪だ。嫌いな奴の頭の上に乗るわけないじゃないか。


ご主人の諦めたようなため息と、再びカリカリと動き始めた鉛筆の音をBGMに、おやすみなさい。





(あ、そういえばたけしにご主人を連れてきてってお願いされてたんだった)




end
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