黒猫の目

□風紀委員
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第三演習室に続く廊下―――

「入学3日目にして、早くも猫の皮が剥がされてきてしまったか…」

CADが入っているであろうアタッシュケースをもった達也とその後を俯きながら続く深雪とその数歩後ろをあるくナナシ。
冷え切った空気が3人の間に流れているかのように空気が重い。生徒会室に行く時よりかなり重い。

「申し訳ありません……」
「お前が謝ることじゃないさ」
「ですが、わたしの所為でまたお兄様にご迷惑が……」

深雪の声は震えていた。きっと涙をこらえているのだろう。
(別に深雪が悪いわけじゃないとおもうがな……)
達也は立ち止り深雪の方を振り開けると、深雪の頭を優しく撫でた。達也の顔は優しい兄の顔をしていた。

「入学式の日にも言っただろ?怒ることのできない俺の代わりに、お前が怒ってくれるから、俺はいつも救われているんだ。……すみません、とは言うなよ。今、ふさわしいのは別の言葉だ」
「はい…頑張って下さい」

麗しい兄弟愛…。普通ならそう思うのだが、この重苦しい空気の中で平然と2人の世界に入っているのを見てナナシは少し呆れた。
(よくやるな…てか、私って存在感ない人間だったか?それともこいつらが異常なだけか?)
怪訝そうな表情が出ていたのか、達也はこちらに視線を向けた。

「ナナシもありがとう」
『ん?なんのことだ?私は自分のことを言っただけだ』

達也が言いたいことは分かっている。結果的に彼を擁護したようなことだったかもしれないが、服部に対して言った言葉は全て自分自身のためだ。
感謝される要素など全く考えていなかった。

『さて、いよいよだな』
3人は頷いて演習室の扉を開けた。
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