いつかかえるところ
□02《クラサメの友だち》
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あれから数週間が過ぎた。
たまにゆめの噂を耳にすることがある。
その優しさと特化した治癒能力が評判を呼んでいた。
リヒトがあの日呼んだ ” 戦場の女神 ” は魔導院内に広まり始め、朱雀四天王と並びその名を馳せた。
ゆめとクラサメは作戦では顔を合わせることはなかったが、魔導院内では顔見知りであるため声を掛け合うことが増えてきた。
ふたりでいる姿をたびたび目撃されることで、
どちらかが好きなんじゃないか
どちらとも好きなんじゃないか
付き合ってるんじゃないか
いろいろな噂がたった。
クラサメは魔導院で知れた存在なので、彼の色恋沙汰となれば周りが黙ってはいない。
もちろん女子たちは気が気ではないし、あのクラサメを射止めた相手は誰なのかと話題になる。
それが最近話題になってきたゆめともなればさらに噂に火がついた。
お互い特別な感情は無い。
いい戦友止まり、といった程度だろうか。
クラサメにとってゆめは、強くて弱い、護ってあげなくてはいけない妹のような存在だった。
ある意味特別なのかもしれない。
ーーー
午後の魔導院。
ゆめは授業の予習の合間、少し休憩をしようとリフレッシュルームへと向かった。
お昼のピークを過ぎたこともあり、あまり人は多くなく、雑談する候補生や講義を終えて一息つく武官たちがくつろいでいた。
「ロイヤルミルクティーください。」
ゆめは飲み物を受け取ると、そのままくるりと振り向いた。
途端。
パシャっ
すぐ後ろを歩いていた女子候補生に軽くぶつかり、袖にかかってしまった。
「あっ!ごめんなさい!よそ見してました!大丈夫ですか!?」
女子候補生は濡れた袖に視線を落とし、あからさまに嫌な顔をゆめに向けた。
「あなた、4組のナナよね。最近クラサメくんと噂になってるからって、調子乗ってるんじゃない?脳内お花畑なの?」
彼女もクラサメファンのひとりなんだろう。
クラサメとゆめの噂をよく思わない女子候補生は多い。
「ぶつかったことはごめんなさい。でも、噂になるような関係じゃありませんし、クラサメさんと特別仲がいいわけでもありません」
「なによ。わたしなんて話した事もないのよ?何度も話してるってことが調子乗ってるって事なのっ!」
女子候補生が怒りで眉を寄せ、ゆめに詰め寄ったその時、女子候補生の濡れた袖にハンカチが押し当てられた。
「えっ?」
驚きでゆめと女子候補生は割って入った人影に目を移す。
「そんな濡れてないよ、大丈夫。
袖からいい匂いするし、あま〜い匂い漂わせて行けば、クラサメくんも振り向いてくれるんじゃなあい?」
ニコッと笑顔を向けた彼女は、長い髪を一つにまとめ、自分と歳の変わらない候補生とは思えないほどの、グラマーで妖艶な雰囲気を纏った美しい人だった。
「少しは努力をしたらどうかな?妬み僻みは醜いよ?そんな人、クラサメくんが好きになるとは思えないな」
口元は笑っていたが、目はマジだった。
そのオーラに圧倒されたのか、女子候補生はゆめを一瞬睨むとそそくさとリフレッシュルームを出て行った。
「あの、ありがとうございます。助かりました」
「いいえ。どういたしまして。困っちゃうわよね、あーゆうの」
にっこりと微笑んだ顔がまた綺麗で、まじまじとその彼女を見つめてしまう。
「キミがあのクラサメくんが気を許しているゆめちゃんかぁ。とっても可愛いねっ」
「いえ、そんな…。あの、クラサメさんのお知り合いですか?」
その時、奥から近づいてきた人影がその彼女に声をかけた。
「エミナ君、どうしたんだい?なかなか戻ってこないから来ちゃったよ」
今度は誰だろう。
長身でメガネをかけた知的な男子候補生が彼女の脇に立った。
「うん、ほらこの子。最近クラサメくんと仲良しなゆめちゃん」
「ああ、キミがゆめ君か。でも悪いけどー、僕とクラサメくんは家族以上の仲だから、キミの入り込む隙はないかも」
「え!?」
その怪しげなメガネの彼の言葉を聞いてゆめは一瞬言葉を失った。
「おいカヅサ、ありもしないことを話すな。何度言ったら分かるんだこの変人」
奥からやって来たのは話の種になっているクラサメだった。
ゆめは親し気に話す3人を見つめる。
その姿はとても楽しそうで、信頼し切った仲だとわかった。
「ああ、ゆめ、紹介するよ。こっちが5組に所属しているエミナ。」
「初めまして。ワタシ、エミナ • ハナハル。仲良くしてねっ」
「それでこっちの変人が11組のカヅサだ」
「変人だなんて、相変わらず酷いなあクラサメ君は。まぁその照れ屋な所がまたかわいいんだけどねぇ」
「どこが照れているんだ。いい加減にしろ」
その発言から変人と言われているのも理解できる気がした。
「彼女は4組のゆめ • 見たいよだ。俺たちより一期後輩で、エミナの一つ年下だ」
「初めまして、ゆめ • 見たいよです。みなさんは同期なんですね。どうりで仲がいいはずですね」
「そうなんだー。でもリヒト君といいキミといい、また新たなライバルが増えちゃったなぁ。これで更に僕とクラサメ君の時間が減ってしまうよ……」
「ワタシのことはエミナって呼んでほしいな。それに、ひとつしか違わないんだし、敬語もやめよっか」
変人カヅサの言葉を遮るようにエミナが割って入った。
とても気さくで明るくて綺麗で、きっと男子候補生から人気なんだろうなぁと思った。
それにゆめも、魅力的なエミナをその瞬間から好きになった。