いつかかえるところ
□10《キミとの平行線》
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ゆめが候補生を引退し、医務局へ異動となった日。
クラサメは講義を終えたその足で医務局を訪れた。
ノックをすると、中から明るい
ゆめの声が聞こえてきた。
「はーい。どうぞっ」
「失礼する」
クラサメは中に入ると静かに扉を閉める。
「あ、クラサメ士官。いらしてくれたんですね。今日からわたしも大人の仲間入りです♪」
ぺこ、と頭を下げるゆめの姿は一変、スマートでシンプルな士官服に身を包み、その上から白衣を身に纏っていた。
その顔はニコニコと笑顔で喜びに満ちている。
制服姿しか見たことの無かったクラサメには、ゆめのその姿が新鮮だった。
「おめでとう。私の方からもよろしく頼む。期待しているよ、ゆめ将官」
「はい!よろしくお願いします!でも、将官だなんて、いきなり難しいです」
照れたような困ったような表情を浮かべるゆめ。
クラサメは少しゆめに歩み寄る
「いつかは士官になり、そして医務局局長になるんだろう?キミなら出来る。その力があるから将官を任されたんだ」
いつでもクラサメの言葉には説得力がある。
その言葉を聞けば何でもできるような自信が湧いてきた。
ゆめはもう一度大きくクラサメに頭を下げた。
「ありがとうございます、クラサメ士官。全力で職務に勤しみたいと思います!」
「ああ。キミも軍人らしくなってきたな」
ふとゆめの腰元に見覚えのあるものが見えた。
それはいつかクラサメがゆめの誕生日にあげた、猫のマスコットキーホルダーだ。
腰のベルトにぶら下げている。
なんとも士官服には似つかわしくない組み合わせだ。
だが、大切に身につけていてくれるのがものすごく嬉しかった。
「クラサメ士官?あ、もしかしてこれですか?にゃんサメ君。可愛いです。もらった時からずーっとここに付けていますよ」
にゃ、にゃんサメ?にゃんサメ君?
名前……なんだろうな。
サメってゆうのは、私の名前とかけているんだろうか…。
人形に名前をつけるあたり、ゆめらしいな。
「あ、ああ、そうなのか。ありがとう、大切にしてくれて」
どうやら名前までつけていてくれたようだ。
ゆめならやりかねない事だと思うと、急に愛しさが溢れた。
だがそれは昔に置いてきた感情。
すぐにクラサメは緩みそうな頬を引き締め、仕事の顔に戻る。
「それではゆめ将官。是非その力を戦場でも発揮してくれ。大いに期待している。
キミに、クリスタルの加護あれ」
そう言い残し、クラサメは医務局を後にした。