短編 2

□《Weak life》
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時計の時刻が、朝の6時を告げる。


眩しい朝日がカーテンをすり抜け、朝の澄んだ空気に小鳥の鳴き声が良く通る。

ドアの向こうで、トントントンと鳴る規則正しい包丁の音が、まどろむ彼の耳に心地よく響く。


パタパタとスリッパの音を鳴らしながらこの部屋のドアに近づく足音を聞き、彼は一糸纏わない上身体を起こす。



「クラサメさん、おはよう」

「おはよう、名無しさん」



名無しさんは部屋に入ると、閉められたカーテンを全て開ける。


ああ、なんて幸せなんだろう。
この何でもない日常が、ものすごく幸せだ。
いつも側に名無しさんがいて、一緒に生活しているこの毎日が、今一番の宝物だ。

「クラサメさん、寝ぐせ」
そう言ってクスッと笑いながら、少し跳ねた藍色の猫っ毛を優しく触る名無しさんが愛おしくて、俺は目の前に立つ彼女をそっと抱きしめた。

抱きしめた、と言うよりかは、名無しさんの柔らかい胸に埋まるように抱きしめてもらっている。
ああ……幸せだ。



「朝から甘えっ子さんだね、生徒たちが見たら驚いちゃうよ。あの鬼教官が家じゃぁまるで仔猫だって」

「名無しさんに甘えられるなら、猫でもいい…」



可笑しそうにまたクスッと笑い、優しい手つきでふわふわの髪を撫でる。


名無しさん、すごくいい匂いだな……
香水は使っていないはずだ。
だとしたら、シャンプーか?
ここまでシャンプーの香りを存分に身に纏えるのは名無しさんだけだな。
さすが、俺の名無しさんだ。


未だ離れようとせず、名無しさんの腰に腕を回し、胸に埋まるクラサメに名無しさんは、



「ニャンサメくんには、人間のご飯は食べられないね?それじゃあ、キャットフードかな?
そういえばまだ残ってるの。兵站局のあの缶詰め」



甘えられるなら猫でもいいけど、名無しさんの手料理が食べられないから、やっぱり猫は嫌だ。
それに、人間じゃないとコレも出来ない。


クラサメはゆっくり名無しさんから腕を解くと、ベッドから立ち上がり両手を彼女の頬に添え唇を重ねた。



「ふふっ、おはようクラサメさん」

「ああ、名無しさん……大好きだ」



昨晩のことを思い出し、また下半身が反応を示している。
これはいけない。
このままもう一回……という流れもアリだが、今日はまだ平日。学校へ行かなければならない。
続きは帰ってから存分に楽しもう。


名無しさんは下着一枚のクラサメに、出勤時に着る服を手渡す。
そんな名無しさんも、すでに出勤時の服に着替え済みだ。

そして、ふたり向かい合い席に着くと、両手を合わせ「いただきます」という掛け声を合わせ、朝食を摂る。


今日は和食か。
焼き魚に煮物に和え物……特にこれ、味噌汁。
名無しさんの作る味噌汁は格別だ。
名無しさんの作る食事は全部美味しいが、やはり和食が一番だな。
ああ……幸せだ。



「今日は何限まであるの?」

「5限だ。今日は補習や特別講習が無いからすぐに帰る」

「それじゃ、終わるまで待ってるから、今日は一緒に帰ろ?夕飯のリクエスト、何かある?」

「ああ、一緒に帰ろう。
名無しさんの作るものなら何でも美味しいよ。けどリクエストを聞いてくれるなら、そうだな……今日はブリ大根が食べたい」

「クラサメさんブリ大根すきだもんねっ。ふふっ、じゃあ今日はブリ大根!」



そんな他愛もない会話をしつつ食事を済ませると、9時からの講義に間に合うよう、講義の準備時間もふまえ、7時50分にふたり揃って家を出る。
愛の巣から、魔導院改め魔導学園へはだいたい8時には着く。





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