短編 2

□《愛を灯して》
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「ふう………」


「あれ?名無しさん先生、もう食べないの?」


「うん。なんだか調子が悪くて」



手作りのお弁当を半分食べたところで、名無しさんはフタを閉め丁寧に包み始めた。



「ほんとぉ?名無しさんっち、昨日もあんまり食べてなかったよねぇ〜?」


「それに、そのお弁当箱。すごく小さいな。半分しか食べなくて足りるのか?」


「なんか胃がムカムカするんだよね。ちょっと熱っぽいし……風邪かな」



包み終わり元あった形に戻ったお弁当を、じーっと見つめてくる視線がある。
食いしん坊シンクだ。

名無しさんはお弁当箱を手に取りシンクに向けて「食べる?」と合図をしてみる。
シンクの顔にぱぁーっと笑顔が広がり、花が舞うように嬉しそうに食べ始めた。



「シンク、あなた今ハンバーグ定食食べたばかりでしょう?そんなに食べると太りますよっ!」


「けち〜。だって名無しさんっちのお弁当美味しいんだも〜ん。……クラサメ先生もこれ食べてるの?」


「うん、同じものを作ってるから」


「キャー!愛妻弁当ってヤツ〜!うらやまし〜い!」

「ずっとラブラブだよねぇ〜いいなぁ〜!」



年頃の女子たちは、きゃあきゃあと尽きない話題で盛り上がっている。

名無しさんは上がった息を整えるように軽く胸をさすりながら立ちがった。

その瞬間、視界が歪み意識が遠くなるような感覚に、名無しさんの身体が崩れ落ちようとした。

(あ、だめだ……)

スローモーションのように薄れる意識の中で、力強い腕が名無しさんの身体を支えてくれる。



「大丈夫かい?名無しさん君」



見上げた先にいたのは、同僚のカヅサだった。
ちょっと期待してしまっただけに、少しだけ残念だ。



「名無しさん先生!大丈夫!?」


「無理しないで?もう少し休みなよ」


「でも、普通ここで登場するのってダンナだよな?なんでアンタ?」



みんなの視線がカヅサに集まった。
そりゃあ日中人の集まる場所でこの人を見るのは珍しい。



「ごめんね、登場した王子様が僕で。お姫様のピンチに駆けつけないなんて、本物の王子失格だね。この機に僕が王子昇格かな?」


「それ、本人が聞いたら殴られるよ」


「カヅサくん、ほんとにありがとね。ごめん、手間かけさせて」


「謝らないでよ。たまには外の空気が吸いたくて来てみたんだけど、外にも出て見るものだね。よかったよ、僕の外出が役に立って」



メガネの長身王子はそのままふらっと立ち去って行った。

名無しさんはもう一度腰掛け、デュースが淹れてくれたお茶を啜った。
心なしか顔色が悪い気がする。



「ねぇ、名無しさん先生、もう帰って休んだほうがいいよ」


「ありがとね、あと一仕事したら帰ろうかな」









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