H×H(長編)

□No,1
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父が死んでから
私は笑わなくなった。


私はいつも謝っていた。父に。


けど死のうとは思わなかった。
違う……
私は怖かった。死んで、父にあって、お前が森へ行こうなんていわなければ、って言われたら、私はどうするんだろう。


わかんないよ


私が10歳の誕生日の時だった。
母が私にこう言った。


“自分を責めるのはもうやめよう?”


母は泣いていた。
“ケイトはもう笑ってくれないの?”
私の肩を掴んで母は私に必死に頼んでいた。


弟が私の隣でジッと私と母のことを見ている。弟の表情は何か言いたそうで。けど言おうとはしなくて。


だけど弟が言いたかった事は多分母と同じく“もう一度笑ってよ”
なんじゃないかなって思った。


(ああ、私なんで笑わなくなったんだっけ。
……おとーさんのため?だけどなんでかな、
おかーさんと弟がこんなにも悲しんでいる。)
ぎゅっと手のひらを握る。
(もう見栄をはるのはやめだ。)


「ごめんなさい、おかーさん」
おかーさんの気持ち全然わかってなかったよ


涙がぼろぼろと頬を伝ってこぼれていく。
母も一緒に泣いていた。





次の日から私は少しずつ笑うように心がけてみた。


最初はおかーさんに「ねぇ、どうやって笑うの?」って聞いたら「そんな事おかあさんはわからないわ」って言ってにこりと微笑んだ。
母の嬉しそうな顔を見て私も微笑んでいた。


私が笑うようになってから1週間ほど経った頃くらいだった。
その日、滅多にならない電話がなった。
母は「はい」と言って受話器をとった。
「どちら様でしょうか」
「……―…―」
「はい……はい…わかりました。」


母は受話器をそっと置いてから私と弟をみて「これから人が来るから部屋で遊んでてちょうだい。あんまりうるさくしちゃ駄目よ」とやさしく言った。


私と弟は「うん」と頷いて2階にある部屋へ歩いて行った。








「誰がくるの?」
弟が首は傾げて私に聞いた。
「わかんない」
私は弟の頭をくしゃりと撫でた。
弟は私をみて不安そうな顔をしている。
「大丈夫だよ」
弟はにこりと笑って「うん、だいじょぶー」と繰り返していた。



30分ほど経った。
コンコン
1階にある玄関のドアがノックされる。
弟は遊び疲れたのか今はケイトの隣ですやすや寝ている。
私は誰が来たのか気になった。


弟が起きないよう、ゆっくり立って部屋のドアの方へ向かって歩く。

キィ……

できるだけ音を出さないように開けたが少し音を出してしまった。


後ろをゆっくり振り向くと弟は全然起きる気配はなく、「うーんもう少し……」などと寝言を言っていた。


片手を廊下の壁に軽く当てながら1階と2階を繋ぐ階段へ向かって歩く。

(一体誰が……?)

心臓がバクバクとうるさい。私は自分の胸に手を当て深く深呼吸をした。

(よし)

階段の手すりにしっかりと掴まって音を鳴らさないように慎重に降りていく。


無事に1階に着くとリビングから話し声が聞こえる。
ケイトはそっと近づきドアに耳を当てる。


「あの事に関して進展はあったのでしょうか」
母の声だ。

「はい……あなたの夫を殺したのは彼の務めていた社長で間違いありません」
(おとーさんの話……!)
拳をぎゅっと握る。
ケイトは話の内容を一言でも漏らさないよう集中した。


「その社長の秘書に話を聞いたところ、“あの男……どんな手を使ってでも殺してやる……”と言っていたそうです。


他にも秘書が電話にでようとすると“私がでるからよい!”と言い“私の前でやるようにな”と電話の相手に言っていたようです……電話の相手は多分、殺し屋でしょう」


どうやら母と話しているのは警察のようだ。
(その男が殺し屋に頼んでおとーさんを……!)
私は父を殺した奴を想像する。
殺し屋なんかに頼る男だ。さぞ情けない奴だろう。
ふつふつと怒りが込み上げてくる。


「その男はもう捕まえて……?」
怒りをおさえた母の声が聞こえてくる。


「いえ……その男は今、行方不明なのです」
ケイトは扉を開けたい衝動をグッとおさえる。
「そんな……ッ!そいつはまだ捕まってないの?!」
母の発した言葉に私はとても共感した。
(許せない……!逃げるなんて!!)


「どうすればいいの……?」
母の半ば諦めている声にケイトは胸がきゅっとしまるような痛みを感じる。


「ハンターに頼めばもしかしたら見つかるかもしれません」


ケイトはハンターという始めて聞く単語に首を傾げる。
「ただし見つかる可能性は大幅に上がると思われますが、依頼をするには結構なお金がかかります」


今、家にお金は全然なかった。
何故なら稼ぎ手だった父が死んでから母一人だけが働いているからだ。


(家にお金はない……ならどうすれば……?)
答えは簡単に出た。
そうか







私が
そのハンターというのになればいいんだ。
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