上条通行(短編)
□御坂保育園
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「はい、じゃあみんな手は綺麗に洗ったわねー?」
御坂先生の呼びかけに、ハーイ、とかはい、とかアァ、とか様々な返事を返す園児達。協調性のなさについては折り紙付きかもしれない。
「じゃあ、まずはこの小麦粉を粉ふるいにかけてサラサラにするわよ。一方通行くんがやる気になっているみたいだから、お願いするわ」
はい、と手渡された粉ふるいをもって小麦粉と対峙する一方通行。やってやンぞコラァ、みたいな気配がゆらゆら立ち上っている。
「打ち止めちゃんは、先生と一緒に卵を割りましょう。制理ちゃんは、当麻くんとインデックスちゃんに卵の割り方を教えてあげて?」
「えっ、わ、わかりましたっ!」
「えー、おデコりょうりできんのかよー」
「おしえて、おデコ!わたしははやくクッキーがたべたいかも!」
「あんたらおしえてもらうつもりがあるなら、ちゃんとせいりってよびなさいよーっ!!」
なんだかんだこの三人はほっといてもうまくいくのだ。そう思って美琴はラストオーダーに卵の割り方を教えることに専念する。
隣では一方通行がウォォォオォォオオオオオオーーーーーーーッ!!!!とものすごい勢いで粉をふるっていた。
なんかすごいとびちらかってるんだけど……………………と思いながら、気迫に押されてとりあえず放置してしまった。
「打ち止めちゃん、おうちで卵割ったことあるかしら?」
「ううん、ミサカはミサカはこれがはじめてのりょうりたいけん!ってはやくたまごをわりたいなってせんせいをせかしてみる!」
「じゃあ、卵の殻がボウルの中に入らないように気をつけましょうね。まずは卵をもって、平らな所にコンコンってぶつけてヒビを入れるのよ」
実際にコンコンと卵をぶつける美琴だったが、なにせ彼女も料理上手というわけではないのでなかなか罅が入らない。
コンコンコンコンコンコン………何度も叩いてようやく入れた罅に指を当てて
「っテイ!」
ぱかーっ、と割れた卵の中身をボウルに落とした。
フゥーーーッ、やりきったわ!みたいな顔をして美琴は
「先生はもうこれで十分だわ。打ち止めちゃん、がんばって!」
「えーーーーっ!?ちょっといまのはおてほんにもなってないかも!ってミサカはミサカはあと4コもあるたまごさんたちにこんわくのまなざしをむけてみたり!」
困惑とかよく知ってるなぁと思うがこの子の頭はなんだか特殊なネットワークを介しているとか聞くので、まあ気にしないでおこうと思う。
「がんばれ!打ち止めちゃん!」
本当にそれ以上卵を割る気はないようで、ガッツポーズを送る美琴。しぶしぶ卵に手を伸ばしコンコンやり始める打ち止めだが、やっぱりうまくいかず、なかなか罅が入らないのだ。
と、そこへ粉をふるい終えてなんだか更に白くなった一方通行が
「おれもてつだってヤる」
にゅっと横から卵を掴み、テーブルに一度
バキョン!!!
卵の中身を撒き散らした。
「わーーーっ!ちょっとあなたはちからかげんがおかしいかも!ってミサカはミサカはそれとなくだまってみてて!ってようきゅうしてみる」
「………………………」
心なしかちょっとしょんぼりした一方通行は打ち止めから離れて吹寄の卵割りセミナーの方へ行ってしまった。
「とりあえずこの卵どうにかしなくっちゃ…………打ち止めちゃんも、制理ちゃんから卵の割り方聞いた方がいいかも?」
「せんせーはなんのためのせんせーなの?ほかのミサカせんせーたちはちゃんとつくりかたをおしえてるよってミサカはミサカはちょっとふまんがあらわかも」
うぐっと痛いところをつかれてよろめきながら美琴は変なところで割れてしまった卵の片付けを1人さみしくしていた。