時のオカリナ
□ヤキモチ
1ページ/1ページ
「今日はいいお買い物日和ねぇ」
「そうだなぁ」
キアラとリンクは2人並んで歩いていた。
城下町。2人の住まいは村のはずれにあるため普段は村の店で生活品を確保している。しかし、2人はたまに城下町を訪れ、色んな露店を見て回るのだ。
「キアラ見てごらん、綺麗な装飾品があるよ」
「まぁホント!綺麗ねぇ…」
装飾品の売る露店に立ち止まる。キアラは緑の髪飾りを1つ手に取り、眺めたり、髪にさして鏡を覗きこんだりする。
出会って十何年、結婚して数ヶ月になるが、キアラの行動1つ1つは出会った頃から変わらず愛らしいもので、リンクはジッとキアラの様子を眺めている。
「どうかしらリンク?」
「うん、とっても綺麗だよ」
「でしょう?素敵だものこの髪飾り」
「嗚呼オレが綺麗だって言ったのはキアラにだよ?」
「…もうっ、キザな人ね」
キアラは照れ隠しにリンクの額をちょんと小突く。
2人は思わずクスクスと笑い出す。
ピクリ、とリンクの耳が動いた。2人からやや離れたところにいる2人組の男たちの会話に反応したのだ。
「美人だなぁ…」
「だなぁ、声かけてみるか?」
「ばっか男いるだろ」
「でも声かけなきゃもったいないだろー。なかなかいないぞあんな美人」
わざとなのか、こちら側に聞こえる声で話す男たち。
彼らの言う美人とはキアラのことだとリンクは確信してる。口に出すほどの美人なんて、ここらではキアラしかいないのだから。
色を含んだ目でキアラを見てる。リンクはムッと眉を寄せ、隣にいるキアラの肩を抱いた。
「っリンク?」
「…ふんっ」
キアラはオレのだ、と言わんばかりに男たちに見せつける。眼光を鋭くして睨みつける。
見せつけられた男たちは焦った様子でその場を去っていった。
男たちが去った後、リンクはキアラを正面から抱きしめた。肩に回っていた腕は自然と腰に下がる。
キアラはリンクの胸を手で軽く押し、彼の顔を見上げる。
ぷくっと頬を膨らまして膨れっ面顔のリンクを見て、キアラはぷっと笑い出した。
「もぉ、リンクってば…ヤキモチ?」
「だってアイツらキアラにナンパしようとしてたんだぞ?キアラはオレの奥さんだってのに…」
「まぁうふふっ」
「笑い事じゃないって」
「あらごめんなさい…ふふっ。旦那様から大切にされてると思ったら嬉しくってつい」
「…当たり前じゃないか」
キアラの態度にリンクはまた更に不満げに眉を寄せる。
険しい顔は彼に似合わない。キアラは背伸びをしてリンクに軽くキスを落とす。
「愛してるわ、リンク」
キスと愛の言葉に、リンクの顔は自然と綻ぶ。
その後、2人はその場を後にした。
「あの人素敵ねぇ…」
「すごくカッコイイ!」
「見かけない人ね。どこに住んでるのかしら…?」
道行く度に、女性たちから黄色い声が聞こえる。それは自身に向けられてるものだと鈍いリンクでも気づいてる。しかし、隣を歩くキアラは彼のことだと気づいていないようで、それの話をあげようともしない。否、気づいている。キアラは女性の声を聞く度にクスクスと笑ってる。
「…キアラってヤキモチやかないのか?」
「え?」
突拍子もなく聞きかれたキアラはリンクの顔を見た。彼の不満げな顔を見て、何故彼がそんなことを聞いてきたのか分かった。
キアラはふぅと息を吐くいた後、リンクの右腕に腕を絡ませる。
「キアラ?」
「ヤキモチなんてやかないわ。私の旦那様を褒めてるんだもの、逆にとても誇らしいわ」
「…オレはキアラにヤキモチやいてほしいんだけどなぁ。…むぅ」
自分だけ嫉妬心を持つのはなんだか不釣り合いがすると、リンクは未だ不満げな顔のまま。
その時、足元からワンと可愛らしい鳴き声が聞こえた。
「まぁリンク見て」
「ん?」
視線を落とせば、数匹の犬達。一番手前にいる毛並みのいい白い犬にリンクは見覚えがある。その犬はリンクの方を見て忙しなく尻尾を振っている。
「お前…まさかリチャードか?」
ワン!とその犬は返事をするように一声鳴いた。
そう、この白い犬は城下町に住む婦人が飼うリチャードだ。7年前に迷子だったリチャードをリンクが婦人の元まで届けたのをキッカケに仲良くなったのだ。
久々に会った友達の姿を見て、リンクの顔に笑みがこぼれた。
「久々だなぁ、元気にしてたか?」
リンクは肩膝をついてリチャードの頭をワシャワシャと撫でる。リチャードは先程より忙しなく尻尾を振る。
リンクの周りに他の犬たちが集まってくる。
「ん?もしかしてコイツらってリチャードの子供か?」
「ワン!」
「やっぱりそうか!へぇ〜可愛いなぁ」
リンクは犬の一匹を抱き上げる。
他の犬たちは抱き上げられた犬が羨ましいのかより一層リンクに体を擦り付けたりする。
「わっ、やめろってば!くすぐったいだろっ。甘えん坊だなぁお前ら〜」
リンクは犬たちと戯れ始めた。
しかし、リンクの隣に立ったままのキアラは若干頬を膨らませて不満そうな顔をしてる。
キアラはリンクの隣に座ると、ギュッと彼に抱きついた。
「キアラ?」
キアラは黙ったままリンクとも目を合わせようとしない。もしかして、
「ヤキモチ…やいてる?」
間をあいてコクリとうなづいた。リンクとは顔を合わせないようにしてるものの、真っ赤な耳は丸見えだ。
「〜〜っ……キアラ」
抱えた犬を下ろしてリンクは即座にキアラを抱きしめる。
ヤキモチなんかやかないと言ってた彼女がヤキモチをやいている、しかも犬に対して。
「…わんこに構いすぎ」
「うん、ごめん」
「……ちょっと寂しかった」
「うん、ごめんな」
妻のヤキモチにリンクは失礼ながらも嬉しいと思う。自分も愛されてるなぁ、と思いながらリンクは拗ねたキアラの頭を撫でた。
「愛してるよ、キアラ」
詫びとして、キスと愛の言葉をキアラに贈る。
キアラの顔は笑顔に変わり、より一層リンクに抱きついた。
ヤキモチ
(実はわたし、ヤキモチやきなんです。)