時のオカリナ

□プロポーズ
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「キアラ!

俺と、結婚してください!」

「……………リンク」

「……なに?」

「いつまで私を告白の練習に付き合わせるのです?」

「…………ごめん、ゼルダ」





「はぁ〜…」

「まぁたプロポーズのことですか団長?」

「ああ…そうだよ…」


魔王が蔓延ることがない時代のハイラル。

国の平和を守るためにあるハイラル騎士団も、ここしばらく国を脅かす脅威もなく城の中に設けられた待機室で各々時間を過ごしていた。

その中、ハイラル騎士団団長にしてハイラル一の剣士と謳われるリンクは落胆の色を見せながら机に突っ伏している。

その理由は、九歳のころからずっと一緒にいるキアラに結婚のプロポーズを中々出来ないでいることだ。

机には結婚指輪の箱。

シンプルながらも、かなり値のはるものだ。


「自信もってくださいよ団長!」

「大体自信もてない方がおかしいって」

「ハイラル騎士団団長!」

「ハイラル一の剣士、右に出るものなどなし!」

「そして女ウケする整った顔立ちに誠実な性格!」

「これだけ揃って逆になぜ自信がもてない!?」

「貴方にプロポーズされて断らない女なんていませんって!」


部下である騎士たちはリンクを鼓舞する。

しかし、


「ああ〜〜〜〜だめだ〜〜〜〜」

「なんだよこのヘタレ!!」

「女々しいぞ団長!」

「この草食男!!」

「お前たち励ましてくれるんじゃないのか!?」


リンクは更に暗いオーラを纒う。

部下たちはなんだ、尊敬する団長の情けなさに鼓舞が罵倒に変わった。


「ぐすっ…いいよもう。お前たちに何も期待してないんだからな…」

「あーあー拗ねちゃいましたよ」

「ほんとこの人元勇者だってのか?」

「あのゼルダ姫を代役にプロポーズ練習するから間違いなく勇者だろ」

「たしかに勇者だなそりゃ」


団長の威厳も国一という肩書きを背負っているとは思えないほどのダメっぷりを見せるリンク。

戦う雄姿を知っている部下の騎士たちは半ば笑いながらため息をついた。


〜♪


待機所の小窓からやわらかな風が流れこんできた。

そこには風と共に、微かだが歌声も流れてきた。

耳のいいハイラル人騎士たちの耳がピンと上を向いて反応した。


「ああ、もうそんな時間か」

「変わらずいい歌声だよなぁ」


決まった時間に聞こえる歌声。

城や城下に住む者たちにとってその歌声は時を知らせてくれるものであり、当たり前のものとなっていた。

部下たちはリンクのことなど放って、遠くから聴こえる微かな歌声に耳を澄まし聴き入った。


「いい声だよなぁ」

「この歌声を聞く度に、平和だなぁと思うよな」


その歌声はハイラルの平和を象徴し、同時にハイラルを豊かにするものである。

ハイラル国民すべてがその歌声を愛している。


「悪いお前たち!少し出てくる!!」

リンクは慌てて待機室を出ていく。


「やれやれ…あの人もとんでもないお方を好きになったよな」

「結ばれたらどれだけの男を敵に回すんだろうな。

なんてったって相手はあの聖女様だ」


部下たちはニヤニヤと走っていった団長の背中を、見えなくなるまで見ていた。

リンクの顔は嬉しさに満ちていた。

愛しい人の元へ全速力で駆けていくその姿は、まさに恋する男。






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