彩雲国物語
□果てない露草
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冗官に落とされて数日たった頃。
冗官にクビ宣告が出された。流石にこの宣告には驚いた。しかし、葵長官に聞くとギリギリで拾ってくれるそうだ。なら、安心して冗官生活を楽しもうじゃないか♪
と、清雅と歩いていたら今話題の紅秀麗と遭遇した。面白そうなので最後まで共に行動することとなった。(清雅が共に行動することに決めたため)
にしても、あの清雅面白い。今までの中で一番面白い。いやぁ〜。冗官に落とされて良かったかも(笑)
でも、流石に、秀麗ちゃんが冗官室の掃除を始めて、私に雑巾を渡してきたときには焦ったな〜。今の私は濡れているものは触れません。左手、包帯だらけだからね(笑)
まあ、何故か代わりに清雅がやってくれたけど。
そして、今は綺麗になった冗官室で早速、提出する課題を作り始めたってわけです。
「えーっと…必要なのは、これとこれと、あ、あれ?届かない」
課題に必要な書物を取りに行った秀麗ちゃんが、書物に手が届かずに困っている。仕方ないなぁ〜。とってあげるか。
「コレとコレとコレとコレでいい??」
「あ、ありがとうございます!!」
そう言って秀麗ちゃんが差し出した手を無視し、秀麗ちゃんが座っている席まで持っていこうとする。
「あ、あの??自分で持ちます!!」
「いいの。いいの。女の子がそんなに重い物もっちゃダメでしょ?」
そう言うと、清雅が顔を上げ、私の方を睨んできた。うぅ〜、怖っ!
「で、でも」
「いいの。いいの。ほら、こっちも貸しッ……て」
「え、あの!?」
急な痛みにその場にうずくまった私を見て、秀麗ちゃんが慌てて駆け寄ってこようとする。しかし、その秀麗ちゃんをどけ、清雅が私の方へ来る。
「…瑠璃!?大丈夫か!?」
「…せ…い、が…く、すり、とっ…て」
「薬?はい」
「ッ…あり、が、と…」
清雅が取ってくれた薬を飲み込む。そして、少しうずくまっていれば、すぐに痛みは引いた。
「…ゴメン、清雅。もう大丈夫」
私がそう言うと、ずっと隣に座っていた清雅が安心したように立ち上がる。
「あの、どうされたんですか?」
秀麗ちゃんが聞いてくる。
「この間ちょっと、怪我しちゃってね。本持ったら、傷口開いちゃったみたい」
そう言うと、秀麗ちゃんは申し訳なさそうな顔をした。
「すみません。私の所為、ですよね…」
「いいの。いいの。勝手に持った私が悪いんだもん。ね、清雅?」
清雅に同意を求めると、大きく頷き答えた。
「ええ。勝手に持った方が悪いんです。それより、傷が痛むなら帰ってください。貴方も配属先はもう、決まっているでしょう?残りの時間を療養に当ててください」
清雅の有無を言わせぬ気迫に大人しく頷き、冗官室から出ていく。すると、秀麗ちゃんのうしろの方で成り行きをずっと見守っていた榛蘇芳が追いかけてきた。
「ねぇ」
「何?蘇芳クン」
「清雅クンってホントにあんな性格なワケ?
さっき、若干ホントの性格っぽいもん、でてたよね?」
あら、この子意外に鋭いのね。でも、本当のことは教えてあげない。
「そんなことより、蘇芳クン。君も配属先決まってないんだろ?探しに行かなくていいのかい?」
「…別にまだ時間あるしな。ねぇ、あんたって武官?だとしたら、なんで冗官なんかやってんの?」
「フフッ。なんでだろうね?蘇芳クン」
「…ずっと、気になってたんだけど、あんたなんで俺の名前知ってんの?」
「だって、私はあなたと同僚だったもの。じゃあ、これ以上は話せないから。またね」
まだ何か聞きたそうな蘇芳を残し、私はその場を去った。
屋敷へ帰ると、家人の白蓮が慌てて出てきた。
「お帰りなさいませ、姫様。今日はお早うございますね」
「清雅に追い返されちゃってね。私、当分、登城しないからよろしく」
「かしこまりました」
白蓮にそれだけ告げると、さっさと自分の部屋へと帰る。時間はまだまだあるし、溜まっている本でも読もうか。
何冊か目の本を読み終え、ふと顔をあげると当たりはすっかり夕焼け色に染まっていた。
そろそろ、清雅の帰ってくる頃だろうから出迎えてやろう。
そう思い立ち、玄関まで向かうと、丁度清雅の帰ってきたところだった。
「お帰り、清雅」
「…ただいま」
お、珍しく素直じゃない。こんな清雅は貴重ね。
「お前、静かに過ごしていたよな?」
「うん、本を読んでいた」
「なら、いい」
私が静かに過ごしていたことを確認すると、清雅は部屋へと帰っていった。私は、どうしようかな。なんて迷っていると、白蓮が話しかけてきた。
「姫様、お食事の用意が整いました」
「分かったわ。清雅、呼んでくるね」
そう言い残し、清雅の部屋へと向かう。清雅の部屋は相変わらず、書物が溢れ返っているが、綺麗に整理されている。
「清雅、食事だって」
「…ああ」
外を眺めていた清雅がこちらを向き、頷く。
「どうかした?」
「…いや、なんでもない。ほら、行くぞ」
清雅の不審な行動に違和感を抱きつつ、先に出ていった清雅の背を追いかける。