彩雲国物語

□ただ、その死を受け入れる
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その知らせは突然やってきた。あの日も私はいつものように、与えられた部屋で仕事をこなしていた。最近、清雅を見かけていないな。なんて考えていた矢先、部屋に近づいてくる足音がした。

清雅が来たのかと思ったが、足音が違う。清雅のあの小憎たらしいぐらい自信満々の足音ではなかった。足音は私たちの部屋の前に来ると、勝手に扉を開けて入ってきた。

なんと入ってきたのは、葵長官だった。何故、葵長官が直々に!?なんて考えていると、葵長官が口を開いた。

「先日の任務で清雅が死んだ。清雅がやり残したものをお前が引き継げ」

葵長官は簡素にそう言って、書類を私の前に置くと部屋から出ていった。

…私は自分の耳を疑った。今、葵長官はなんと?なんと言った?

私の手が止まっていることに気づいたのか、近くで書類を片付けていた蘇芳が話しかけてきた。

「お嬢?どうかした?」

「…逆にタンタンはどうしてそんなに、平気そうにしているの!?清雅が死んだのよ?同僚が死んだというのに、どうしてそんなに平気そうにしているのよ!?」

そう怒鳴りつけると蘇芳は不思議そうな顔をした。

「どうして?って言われてもなぁー。セーガだし、仕方ないんじゃない?あんなやり方してたんだから。それに、お嬢はここで喜ぶべきじゃないの?普段あんなに憎んでたセーガがいなくなったんだから」

「喜ばないわよ!!自分の手で落とさなきゃ何の意味もないわよ!」

それだけ言うと、私は机に突っ伏した。
清雅!どうして先に死んだのよ!?私の先で待ってるんじゃなかったの!?私が必死に這い上がってる姿を嘲笑いながら、必ず私の一歩先を歩いていてくれるんじゃなかったの!?

いつか、清雅に追いつける日が来たら、たった一言だけ言おうと思っていたのに、それすらもさせてくれないの!?どうせ鼻で笑われることはわかってるけど、どうしても伝えたかったから、清雅に追いつこうと必死になっていたのに。どうして、私を置いて遠く、私には到底辿りつけないところまで行ってしまったのよ!

……私も死んでやる!清雅のいない世界なんて面白くない。この世に清雅がいなきゃ何も意味がない。もう私が頑張らなきゃいけない理由はない。もう、もういいよね。私、頑張ったもん。劉輝の為に生きていくことは出来ない。私の生き甲斐は清雅と競うことだったから。

ごめんね、劉輝。ごめんね、父様。ごめんね………母様……




グサッ

その音に俺はビビって顔をあげた。すると、お嬢が胸に小刀を刺さっていて。…既に、お嬢の命は、息絶えていた。

「…お嬢!?お嬢!?おい!返事しろよ、お嬢!!!返事をしろ!!紅秀麗!!」

俺は必死に叫んだ。だけど、お嬢が返事をすることは無くて。俺はどうしてこうなったのかサッパリわからなくて。どうしよう…なんて戸惑っていたときに、静蘭が部屋に入ってきた。

「タンタン君。お嬢様にな……な!?お、お嬢様!?」

部屋に入ってきた静蘭は、息絶えたお嬢を見るなり、慌てて駆け寄る。しかし、既に息をしていないことを確認すると、俺の方に歩いてきた。

「…タンタン君、どういうことです!?貴方がついていながら、どうしてお嬢様は自殺など、したのです!?」

「わからない。俺にもサッパリわからない」

「とりあえず、今日1日のことを話なさい」

静蘭に言われ、今日のことを思い出しながら話す。

「…で、そしたら長官が来て。セーガが死んだから仕事を引き継げ。と言って帰ってて、その後、お嬢の手が止まってたからどうしたのか。と聞いたら、どうして俺はセーガが死んだのに、そんなに平気そうにしている。って怒鳴られて。セーガだから仕方ないんじゃない?って答えたら、お嬢、また怒鳴って。でも、その後は急に机に突っ伏して。

とりあえず、俺は仕事に集中してたんだけど、グサッて音がして、顔をあげたらこの状況だった」

そう伝えると静蘭は、少し考え始めた。

「……てことは、お嬢様が自殺したのは陸清雅が原因だと。タンタン君、葵皇毅殿のところへ行きますよ」

俺は静蘭に連れられ、長官室に来た。長官は相変わらず、冷たい視線を向けてきている。

「何用だ。早く済ませろ」

「…お嬢様が、秀麗お嬢様が、死にました」

静蘭がそう言うと、長官の眉がほんの少し動いた。

「何死だ」

「刺殺です」

「…自殺じゃないだろうな」

「……自殺です」

静蘭の言葉を聞いた長官は途端に機嫌が悪そうになった。そして、先程より冷たい声で俺に命令してきた。

「父親を呼んで来て遺体を持って帰って貰え。そして、部屋を綺麗に片付けろ。その後、お前は清雅が使っていた部屋を使え。以上だ、出てけ」

それだけ言うと、長官は書物を読むのを再開した。俺たちは仕方なくお嬢の父親を呼びに行き、部屋を片付け、お嬢を弔った。

俺はお嬢の墓の前で、必死に謝った。お嬢、本当はセーガのこと好きだったんだと、お嬢が死んでから気づいた。気づくのが遅すぎてお嬢を傷つけてしまった。色々助けてもらったのに、ごめん。本当にごめん。俺、お嬢の分まで生きるから。

だから、お嬢は生まれ変わって幸せになってくれ。

―俺はただお嬢の死を受け入れるから―


END

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