彩雲国物語

□瑠璃に沈む
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月夜を見ると思い出す私が殺してしまった人。

私があの時、違う選択をしていれば。
何度そう思っただろう。だけど、そんなことを思ったって彼は帰っては来ない。

それでも、涙が溢れてつい俯く。すると、豪快に扉が開けられた。

この時間帯に私の部屋の扉を開ける人なんて1人しかいない。清雅だ。

…どうして、清雅はいつも私が悲しんでいる時に来るのだろう。

俯きながらそんなことを考えていると、頬に暖かい手が添えられ、溢れていた涙を拭う。

「…泣いているのか」

清雅には珍しい、とても優しい声だった。
だけど、私はそんな清雅はいらない。余裕の微笑みを浮かべ、私を挑発する清雅以外はいらない。

だから、頬に添えられた清雅の手を振り払い答えた。

「泣いてなんかいないわよ!それより、何をしに来たの!」

「…お前は誰を見ている?俺を見ろ。ここにいるのは、俺だ」

ああ、もう!調子狂うな!私が見ているのは清雅よ!ここには、清雅以外誰もいないのだから。

「何言ってるのよ。私は清雅を見ているじゃない!ここには、あんた以外誰もいないんだからね」

「いや、お前の瞳は俺を見ていない。お前は俺だけを見て、俺だけを追っていればいいんだよ。それなのに、何故お前は俺以外の奴の為に泣く!?俺以外の奴がお前を泣かせるのはムカつく」

…自分のことだけを見ていればいいだなんて清雅以外の誰にも言えないだろう。清雅だからこそ言えて清雅以外が言えば戯言にしかならない。

「私は泣いてなどいないわ。泣いている暇などないもの」

「嘘だ。お前は泣いていた」

心底不機嫌そうな顔を浮かべて清雅が答える。

「いいえ、泣いてなどいないわ。俯いていたからそう見えただけでしょう」

「…秀麗、二胡を弾け」

「嫌よ。なんであんたなんかの為に弾かなきゃいけないの」

「弾け。それとも、俺には弾けないというのか?茶朔洵には弾いてやったくせに」

その名に心が揺れる。だけど、揺れる心を無理やり抑えて清雅に答える。

「…いいわよ、弾いてあげるわよ」

「それでいい」

「で?何を弾けばいいの?」

「五更調」

片思いの曲…。女嫌いの清雅にも想い人がいるのかしら?

二胡を聞く清雅は綺麗だった。いつも私のことを睨みつけてくる瞳を閉じ、いつもとは違う優しい微笑みを小さく浮かべ曲を聞いていた。

まだ知らない清雅がいるんだろう。と思うとまだ知らない清雅を知りたいとも思うし、まだ知らない清雅がいることが悔しい。


二胡を聞き終わったあとの清雅はいつもの俺様に戻っており、調子が狂ったのだった。
好きな子でもいて、ふられたのかな?

いや、でも、女に不信感をもつ清雅に限ってそんなことはないだろう。
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