彩雲国物語

□果てない露草
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「こんばんは、若様」

「…瑠璃、どうした」

笑顔で挨拶をした私を訝しげにみる若様。相変わらず、女嫌いは変わっていないのね。まあ、この家にいる限りは仕方ないか。

「若様、今夜この家は女たちにより滅びます。貴方が望むなら私は貴方のことを助けにきましょう。望まないなら貴方はそのまま死ぬことになります。貴方は私が助けることを望みますか」

滅びる。そう告げても若様の表情は一切変わらなかった。まだ、8歳なのに、何もかもを悟ってしまったのですね。あの女たちの所為で。

「…お前は俺のことを助けられるのか。なぜ?」

若様は淡々と告げた。

「私は縹家の人間で異能持ちです。貴方1人だけを助ける力は持っています」

若様は悩み、答えた。

「…お前にかけてみることにする。俺を助け ろ」

「わかりました」

私は若様の言葉が嬉しかった。少しでも私のことを信用してくれたということだから。

「それでは、また夜にお迎いに参りますね」

そう言い、私は自分の屋敷へと帰る。それから、数時間後。私が予言したとおり、陸家が滅ぼされ始めた。そのことに気づいた私は陸家へと迷わず向かう。もう二度と縹家に帰ってこれないのだろう。

陸家の屋敷に行くと、健気に自分の部屋で待つ若様がいた。

「若様、約束どおりお迎えにあがりました」

「ああ、待っていた」

若様のその言葉に若様を抱き上げる。

「…本当にいいのですね?母君様や父君様、家族を見捨てて」

私がそう聞くと若様は即座に首を縦に振った。

「構わない。あんな奴らを家族だと思ったことなどない」

「そうですか。それでは、参りましょうか」

若様の答えに安堵を覚えながら、持っている異能を使い追っ手のこれぬ場所へと逃げる。

もう追いついてこれぬだろう。というところで抱えていた若様を降ろす。若様が閉じていた目を開く。

「…本当に助けてくれたのだな」

「疑っていたのですか」

「ああ。他人は絶対に裏切るものだと思っていたから」

「じゃあ、ずっとそう思っててくださいませ。そして、私を異端の人として見てくださいな」

「…なあ、瑠璃。何故、俺を助けた?」

若様のその質問に私は微笑みながら答える。

「それはですね、私が若様のことを慕っているからですよ。婚約者としてではなく、一部下としてね」

「じゃあ、お前はあいつらみたいに媚びをうったりしないんだな?」

「もちろんでございます。私は若様のことをお守りする。そう決めたのです。誰かの命令ではなく己の意思で決めたのですから」

私の言葉に若様は軽く微笑んだ。

「そうか。ならば、お前のことは絶対に信じよう。お前だけはな。だから、俺のことを確実に守れよ」

若様の言葉に心底嬉しくなった。

「はい、若様」

「清雅だ」

「え?」

「だから、清雅だ。名前で呼べ」

何を言っているのかと思った。正直、驚いたがとても嬉しかった。

「はい、清雅様」

その呼び方に清雅様は心底嬉しそうな微笑みを浮かべた。
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