彩雲国物語

□果てない露草
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――あれから、12年。

時が経つのは早いですねぇ。清雅も私もすっかり大人になり、あの頃は8歳だった清雅は20歳に、10歳だった私は22歳になった。

現在清雅は、資蔭制で朝廷に入り御史台にて監察御史をしている。私はその清雅の護衛だ。まあ、一応御史裏行になっているけどね。


幼少期と変わらず、俺様で生意気。全く成長していないなぁ〜。
生意気だけれど、仕事の腕は確実だし、何だかんだで優しい。幼い頃、彼に仕えることに決めて良かったよ。

「瑠璃、仕事行くぞ」

「今行く!」

清雅からお呼びがかかった。今日の仕事は何だろう?清雅は私に仕事の中身を教えてくれないことが多い。まあ、教えてくれなくてもいいけどね。私は私の仕事をするだけ。

先を歩いていた清雅の後を追い歩いていると、とある部屋に通された。

「清雅、何でこの部屋に?」

清雅は軽く溜息をつき、言う。

「今回は女がいないと駄目なんだ。だから、よろしく」

…久しぶりだな〜。ちゃんと仕事に関わるの。最近、護衛の仕事ばかりだったし。

「りょーかい。じゃあ、ちょっと待っててね」

「ああ。服と化粧道具は揃えてある。髪は結ってやるよ」

お、清雅が結ってくれるのか。楽しみだな♪
清雅は何故か、昔から髪を結うのが得意だ。清雅って女のことものすんごく毛嫌いしてるのになんでだろ?

ま、いっか。

―20分後。

よし、こんな感じでいいかな。じゃあ、清雅呼ぶか。

「清雅〜終わった。髪よろしく」

その声に清雅が部屋に入ってくる。そして、どこに持ってたのやら櫛やら簪やら、髪留めを出してきて髪を結い始めた。

「相変わらず油は使ってないんだな」

「うん、使わなくても困らないしね。まあ、おかげでいつも結うの大変なんだけど」

「なら、俺に頼めばいいじゃないか」

清雅が鏡越しにニヤッと笑いながら言う。

「嫌よ。清雅に頼むと代わりに何かしてあげなきゃいけないもの」

「よくわかってるじゃないか」

「そりゃ10年以上も一緒にいればね」

清雅の性格ぐらい熟知するわよ。特に清雅は扱いやすい性格してるしね。

「ほら、出来たぞ」

「うん、ありがと」

相変わらず、お上手で。女の私が羨ましくなる腕の良さよねぇ。

「ほら、何ボーッとしてんだ。行くぞ」

「はいはーい」

先に部屋を出た清雅の背中を追いかける。思えばこの12年間、ずっと清雅の背中ばかり追ってきたな…。隣に立つことなんてごく稀で。でも、まあ、ごく稀だからこそ、清雅の隣に立てるのは嬉しいのよね。今日は女の格好だし、清雅の隣に立てるかしら?

「瑠璃、遅い。本当にお前は武官か?」

「ああ、確かに瑠璃は遅いな。しかし、腕は確かだ」

清雅以外の声に驚き、声の方を向くと、右羽林軍大将軍の白雷炎がいた。

「また貴方ですか、白大将軍」

「よう!俺んとこ、来ねぇか?」

…また、その話か…

「お断りします。そんな自由が利かないところなんか入りません!」

「お前限定で自由が利くようにしてやるよ」

「それでも清雅の傍にいられる時間は格段に減るでしょう!?そんなの、絶対に嫌ですよ!」

私の言葉に白大将軍の隣にいた清雅が酷く驚いている。

「別にこいつはもう子供じゃないんだし、お前が守ってやらなくてもいいだろ?」

「確かに白大将軍の言う通りですが、私は私の大切な人を自分の手で守ってないと嫌なんです!」

その言葉に清雅が思いっきり目を逸らし、少し俯いて頬が赤く染ま…る訳ないよね、清雅だもん。

「チッ。今回は仕方ないから見逃してやるよ。今度は絶対に入ってもらうからな!」

「絶対に入りません!!」

去っていく白大将軍の背中に叫ぶ。白大将軍の姿が完璧に見えなくなった頃、清雅に話しかける。

「清雅、ごめん。時間とっちゃって。早く行こ?」

「あ、ああ」

…??いつもよりキレが悪い気がするけど、気の所為…だよね?

その後、清雅が用意してた馬車内で今回の仕事の内容を聞いた。

「最近、主上暗殺を企んでる官吏がいるらしくてな。そいつらの密会がある甘味処で行われているらしいから、捕まえてこいとのことだ」

主上暗殺ねぇ。今の主上を暗殺したところで大して変わらないと思うんだけど…

「で、何で私は女の格好をさせられたの?」

「…その甘味処は恋人限定なんだ」

…何その面倒くさい甘味処。なんでそんな面倒くさい所で密会なんかしてるのよ!

「…って、あれ?じゃあ、女官の中にも主上暗殺を企んでる者がいる。ってこと?」

「そうらしい。まったく、女はつくづくバカだな」

……私も女なので何も言えないんですけど…。

「ほら、着いたぞ」

つまらなそうに外を向いていた清雅がこちらを見ながら言う。そして、馬車の扉を開け、先に降りる。

私も降りようとすると、清雅に腰をさらわれ降ろされた。

「あ、ありがと」

「どういたしまして」

清雅はいつもの不敵な笑みを浮かべ、答える。
そして、甘味処に入って行く。私は慌ててその背中を追った。

清雅は目的の人物を見つけたらしく、真ん中を仕切られた隣の席へと座った。

私も清雅の向かいに座り、相手を確認する。男2人の女2人か。攻撃を仕掛けるには少し不利だな。

そんなことを考えていると、清雅が適当に注文してあったのか、お茶とお菓子が運ばれてきた。お、抹茶あんみつじゃん。流石、清雅。よくわかってる〜♪

「いただきまーす!」

運ばれてくるなり食べ始めた私を見て、清雅が笑いながら言う。

「お前、ホントにあんみつ好きだな。俺より、あんみつかよ…」

「何、清雅も食べたいの?仕方ないな、一口だけあげる。ほら、あーん」

そう言って、匙にのったあんみつを清雅に方へ突き出すと、パクッと食べる。

「…甘い」

清雅がお茶を飲みながらいう。

「そりゃ甘味ですから」

清雅の少し引き攣った顔を見て和んでいると、隣の席から『主上』という言葉が聞こえてきた。

「瑠璃」

「わかってる」

隣の席に耳を澄ませながら喋る。どうやら、暗殺の日程を決めているようだ。4人を捕まえようと席を立とうとした瞬間、清雅の後ろの少し離れた席に座っていた男が小刀を取り出すのが見えた。

…しまった。あそこにも仲間がいたか。

「清雅、待って」

動こうとしている清雅をとめ、場所を交代してもらい再び、捕まえようと動き出す。その瞬間、男が小刀を放った。

隠し持っていた小刀を取り出し、床に叩き落とす。そのことに清雅は気づいておらず、4人を拘束している。

その清雅を見て、男は再び小刀を放とうとする。それを確認し、私も小刀を構える。小刀を持ったままの睨み合いが始まった。

男はなかなか小刀を放とうとしない。しかし、清雅が動いた瞬間、男も動いた。
やばい。そう思い、清雅を庇い清雅の前へと出た。


グサッと嫌な音がした。そして、血が大量に吹き出す。急所はどうにか避けたが、左腕に命中してしまった。

小刀を放った男は向かいに座っていた女を連れ、逃げた。清雅はそれを確認すると、私の持っていた小刀を奪い、追いかけ始めた。

私は、先ほど清雅が捕まえた官吏4人を片手で引っ張り、馬車に乗せ清雅の後を追う。

…清雅は、大丈夫だろうか…。あの男、結構腕が立つようだった。清雅を追い、着いた場所は路地裏だった。女はどこかへ逃げたらしく、男と清雅が睨み合っていた。

男が私がいることに気づいていないことを確認すると、小刀を男へと放った。
男は小刀を避けきれず、急所へと当たった。

清雅は男をとりあえず拘束すると、慌てて私の方へ駆け寄ってきた。

「瑠璃!大丈夫か!!」

「…どうにか…」

「とりあえず、早く帰るぞ」

清雅に従い、男を引きずりつつ馬車へと戻ると…。馬車が無くなっていた。どうやら、まだ仲間がいたらしい。…逃げられた。

仕方なく、拘束した男のみ引きずって帰ったが、男は既に亡くなっていた。当たり所が悪かったらしい。

密会を開いていた官吏たちの足取りはつかめず、結局捕まえることは出来なかった。そして、私と清雅は任務を失敗したため、1ヶ月間冗官に落とされることとなってしまった。
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