彩雲国物語
□空色の君
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葵長官に呼ばれ、長官室へと行くとそこには我が天敵と言っても過言ではない陸清雅がいた。
まさか、また清雅と仕事?
清雅を見ながら歩いていると、清雅がニヤッと笑い、
「なに俺に見惚れてるんだ?」
と言った。
「見惚れてません!!」
何なのよアイツ!私があんなのに見惚れるわけないじゃない!
そんな言い合いをしながらも、私が清雅の隣に並んだことを確認した長官は口を開いた。
「最近、殴り逃げ事件が相次いでいる。数人、意識不明の重体に陥っている。 清雅に細かいことを調べてもらったら、狙われた人は必ず恋人がおり、その恋人とある御者の馬車に乗っている。ということが判明した。」
恋人と馬車に乗った人が?
「しかし、証拠がなかなか掴めん。お前たち、狙われ捕まえてこい」
…つまり、清雅と恋人のフリをしろと?
「お前たちは、これから半月の間恋人のフリをしろ」
半月の間!?
「何故半月の間も恋人のフリをしなきゃならないのですか!?馬車に乗る時だけでいいのでは!?」
「だめだ。基本、日常生活で狙われている。やるよな?」
…とっとと捕まえてやる!!
「やります!さっさと捕まえてみせます!」
そう言うと、清雅は面白そうに笑った。
「ふーん?じゃあ、期待してるぜ」
もう!イラつくヤツね!!
「ええ、期待してなさいよ。よろしく、清雅」
「こちらこそ」
清雅はそう言って、私の手を引き腰に手を回し自分の方へ私を引き寄せた。
「じゃあ、早速馬車に乗りに行こうか、秀麗?」
「そうね。でも、この手は離してくれないかしら?」
腰に回った清雅の手を掴みながら言う。
「別にいいじゃねぇか。それにこっちのが恋人っぽいだろ?」
そう言われて仕方なく引き下がる。仕事、仕事
「で?その馬車には、どうやって乗れるの?」
「ある場所に呼んである」
あら、用意周到ね。…早くそのある場所に着かないかしら。この状態で城内を歩くのはとても嫌なのだけれど。
「じゃあ、早く行きましょ?」
できるだけ恋人に見えるように頑張っているけれど、笑顔引き攣ってないかしら…。
「ほら、この馬車だ」
清雅が向かった場所は城から少し離れた街中だった。馬車の横には男性の御者がうやうやしく立っていた。
「お待ちしておりました、陸清雅様。さあ、どうぞ」
御者に導かれ、清雅が先に乗る。そして、
私の方に手を差し伸べてきた。本当は振り払いたかったけれど、御者の手前、その手を掴んだ。すると、清雅が強引に引き上げ、清雅の胸に納まる形になった。
「じゃあ、指定の場所まで頼む」
「はい、かしこまりました」
御者が馬の方へと消えると清雅が喋り出した。
「全くなにするのよ?」
「お前が危なっかしいから、手伝ってやったんだろ?」
清雅がいつもの不敵な笑顔を浮かべながら耳元で囁く。
「ていうか、いい加減この体勢といてくれないかしら?」
「嫌だね。俺はお前の恋人、なんだからな」
清雅が恋人を強調しながら言う。そんなこと言わなくてもわかってるわよ。半月の間は、清雅の恋人っていう仕事なことは!
「そうね。でも、いつも言ってるでしょう?くっつかれるのはあまり好きじゃないの!いい加減にして!」
「うるさい口だな?俺が無理やり黙らせてやろうか?」
清雅がいつものようにニヤッと笑って言う。
「ふん!出来るならやって見なさいよ!」
「可愛くないな。…お前はイイコでおとなしく俺に抱かれてればいいんだよ」
遊ばれている。絶対に遊ばれている!目をみればわかるのよ、コンチクショー!
「…よそ見とはいい度胸だな、秀麗?」
うわっ。こいつホントにする気だわ。
「よそ見なんてしてないわよ?私の目には貴方しか映ってないもの」
その言葉に清雅は、またニッと笑い顔を近づけてきた。私は清雅の目を睨んだまま、近づいてくる清雅を止めはしなかった。
あと指一本分で重なる、というところで馬車が止まった。
「…残念だったな。もう着いたようだ」
「はい、その通りです。指定いただきました場所に着きました」
外から御者の声が掛かる。清雅が仕方なさそうに離れ、馬車から降りて行く。そして、私の方へと手を伸ばす。
今度も私は笑顔で、清雅に手を預ける。すると、また清雅は無理やり引っ張り、体勢を崩した私は清雅の胸へと納まった。
それを見て、御者の顔が少し歪んだがすぐに笑顔になった。
「御利用いただきありがとうございました。またの御依頼、お待ち申しております」
そう言うと、御者は馬車に乗りどこかへと走っていった。
…って、ここ、私の家じゃない。
「なんで、目的地が私の家なのよ?」
「俺の家の方が良かったか?意外に積極的なんだな?」
清雅が不敵な笑みを浮かべながら答える。
話にならないわ、全く!まあ、でも、帰る手間が省けたからいいか。
「別に私の家でいいわよ。さあ、とりあえず、任務が終わったんだから帰りなさいよ」
「おい、わざわざ送ってやったんだから、茶ぐらいだせよ」
…何で清雅なんかに?嫌よ、こんな男に出すお茶なんてないわ!