彩雲国物語

□空色の君
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「お嬢様、誰です?その男」

後ろから掛かった声に振り返ると、静蘭がいた。

「あら、今日は早かったのね、静蘭…と、タンタン!?」

静蘭の後ろから、何かに怯えながら出てきたのはタンタンこと榛蘇芳だった。

「こ、こんにちは、おじょーさん」

「こんにちは。ていうか、なんでタンタンが静蘭と一緒に我が家に?」

そう聞くと、タンタンはまた何かに怯えながら答えた。

「いつもの部屋で仕事してたら、タケノコ家人が来て、色々聞かれた挙句、ここまで連れ去られた」

「…??静蘭は、タンタンに何が聞きたかったの?」

「お嬢様が男と親密そうに歩いていた。と武官たちが噂してまして。どういうことかと、聞きに行ったらタンタン君しかおらず、タンタン君に聞いたところ何も知らない。となかなか口を割らないのでとりあえず、連れてきました」

…静蘭、かなり強引に色々と…

「で、お嬢様。その男は誰なんです?」

静蘭が私の隣で心底面白そうに笑っている清雅を指さし問う。

「ああ、これはね、私の同僚の陸清雅」

「あの官吏殺しと呼ばれる陸清雅ですか。よろしくお願いしますね」

静蘭が笑みを浮かべながら、清雅に言う。

「こちらこそ、よろしくお願いします。いつも、秀麗さんにはお世話になってるんです」

清雅が善人の猫を被りながら静蘭に答える。

「いえいえ、こちらこそお嬢様がいつもお世話になっています」

ゴゴゴゴという音が聞こえてきそうなやりとりに、つい一歩下がる。タンタンに至っては門の裏に隠れている。

とりあえず、軒先で立ち話もなんだし入ってもらうか。

「三人とも、お茶を入れるからとりあえず入って」

その言葉にタンタンが真っ先に入り、静蘭が続き清雅が一番最後に入る。

適当に席に座ってもらい、お茶を入れに台所へ行く。お茶を入れる準備を始めて少しすると、タンタンがやって来た。

「…どうしたの?」

「あの2人があまりにも怖いから逃げてきた」

タンタンが怯えた顔をしながら言う。あの2人は一体何をしてるのよ。大人しく待ってなさいよ、全く。

「お茶、入ったから運ぶの手伝って」

台所の端っこでまだ何かを言っているタンタンに声を掛けると、お茶ののった盆を持ってくれた。

「いつまでその仮面をかぶり続けているつもりです?清雅君」

「仮面って何のことですか?静蘭さんは不思議なことを言いますね?」

聞こえてきた2人の会話に部屋に入るのを思わずやめたくなる。

「はいはい、2人ともいい加減にして。特に清雅。静蘭の言う通りいい加減、いつものように戻りなさいよ」

部屋に入り、2人の喧嘩?を止める。そして、タンタンが持っていた盆からお茶を机の上に置いていく。盆を置くと、タンタンは清雅の隣へと座る。私は静蘭の隣に座り、タンタンと向かい合う形になる。

「で、お嬢様?どうしてこのような男と親しげに…まるで恋人のように歩いていたんです?」

私が座ったのを確認すると静蘭が間髪入れずに、聞いてくる。

「仕事よ。細いことは話せないわ」

「そう、ですか」

静蘭がシュンとして引き下がる。

「そうそう。そいつの言う通り、仕事で半月の間、そいつの恋人になったから」

本性を露にした清雅が口を挟む。

「半月も?」

タンタンが問う。

「そう。半月も、よ」

そう答えるとタンタンが心配そうな顔を浮かべた。

「…くれぐれも、お嬢様に手を出させないでくださいね、タンタン君」

静蘭が脅すようにタンタンに頼む。

「いや、俺も、ずっと一緒には、いられないし、な…」

「お願いします、ね?」

タンタンの言っていることは事実なのだが、静蘭の迫力に押され、つい頷いていた。

「手なんか出しませんよ。こんな女」

「…それは、お嬢様に魅力がないとでも?」

また、喧嘩に発展しそうになった矢先、のんびりな声が響いた。

「ただいま〜」

「父様!おかえりなさい!」

「旦那様、おかえりなさいませ」

「お、2人とも早かったねぇ〜。あ、お客さんも来ているのかい」

父様が清雅とタンタンに目を向け、そう言う。

「ええ。2人とも私の同僚で、こちらが陸清雅、こちらがタン…じゃなくて、榛蘇芳よ」

「清雅くんに蘇芳くん。いつも、娘が世話になっています」

その言葉に、清雅がスッと立って軽く頭を垂れる。

「いえ。こちらこそ、いつも秀麗さんにお世話になっています。紅 邵可様 」

「おや?私の名前を知っているんですか」

「はい、官吏の間では邵可様は有名なお方です」

父様が??確かに頭はとても良いけど、それだけで官吏の間で有名になるのかしら?

「私が有名、ですか?」

「はい。吏部尚書の紅黎深様の兄君であの氷の長官を打ち負かすことができ、あの紅秀麗の父君でもあると」
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