novel 1
□本能
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溶けてしまうんじゃないかと思ってしまうほどの、日差し。
塩分を含んだ水が全身から溢れ、服にくっついてくる。
それがなんだか気持ち悪い。
新しいワンピースなのにな。
先程から夏の日差しが私とアイスキャンディーを刺激する。
ソーダ味の冷たいアイスキャンディーはじわじわと融解を始めた。
ふとすると、融解された水色の液体がアスファルトに小さなシミを作る。
そのシミはすぐに太陽によって存在を掻き消された。
このアイスキャンディーは一体どこに行ったのか。
せめてこの炎天下の中、足元で必死に働くアリにあげたかったものだ。
アリたちは女王アリにせっせとエサを運び、子孫を残してもらう。
働きアリも女王アリと同じメスだと言うのに酷な話だ。
しかし、女王アリは好きでもない相手のせっせと卵を産み、役目を終えるのを待つだけ。
そのためだけに生きる女王アリ。
先程から鳴り止まないセミたちは土から出れば一週間の命。
メスに出会うためオスたちも声を張り上げ必死。
水溜りに卵を産むトンボたちは、その水溜りが一瞬でしかないことを知らない。
もしトンボがそのことを知っていたとしても、卵を産むのだろうか。
愛のために。
それとも、
子孫を残そうとする
本能として。
「どーしたの?」
タバコの匂いと共に、男が私の顔を覗き込んできた。
彼もきっと本能で、子孫を残そうと必死になるのだろう。
私以外の女と。
「なんでもない」
足元のアリをいつの間にか、私は踏んでいた。
【本能】