●○特別○●

□PLUS★きみがすき
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彼好みの着物に身を包み



似合うと言ってくれた色の紅を点し



彼が来てくれるのをずっと待ってる。




窓辺の欄干にもたれて、下方を行き交う人の中にその姿を探しながら、



似た姿を見つけては身を乗り出して、違ったことにがっくりと肩を落とす。



さっきから、ずっとそんなことを繰り返していた。




「はぁー」




その度にこぼれる溜め息。



島原の女はひたすら耐えて待つしかない。



だけどそろそろ限界。



逢いたくて、逢いたくて、なのに逢えなくて。



心が寂し過ぎて壊れてしまいそう。


それでも、彼が来なくとも、夜になればお座敷に行かなくてはいけない。



・・・今日も来ないのかな・・・・



廊下をすれ違う人にも彼の姿を期待して、漏れ聞こえてくる声に聞き耳を立てその声を探して・・・



・・・今日も来なかった・・・




いつもよりも少し早い時間にお座敷が終わって、揚屋を出た。



やけに通りが騒がしい。



何かあったのかと周りを見回すと、人混みの中に浅黄色が見える。




『ご用改めである!』




新選組がお店を一つ一つ見回っているようだった。



それを見て不安になる。



・・・俊太郎さま・・・



逢いたくて想いを募らせて、彼の身の危険を案じて・・・頭の中は彼のことで一杯。



だから捜し続けたその姿を見つけた時・・・一瞬、幻覚を見たのかと思った。




「枡…っ」




周りを警戒しつつ、道の向こう側にいた俊太郎さまに、彼の仮の名を呼んで駆け寄ろうとして・・・



勢いをつけた足に、私は急ブレーキをかけた。




「…え…」




彼の隣には、背の高い、すらりとした綺麗な女の人。



何やら親しげに話をしている。



と思った次の瞬間、俊太郎さまが女の人の肩を引き寄せ耳元に唇を寄せた。




「っ!」




頭を鈍器で殴られたような感覚がした。



すると今度は、女の人が俊太郎さまの肩に手を置いて、



背の高い自らよりも、またさらに背の高い俊太郎さまに背伸びをしながら、耳元に唇を寄せる。



そして、俊太郎さまは声を聞き取りやすいようにするためか、



長身を屈め自分の耳を女の人の口元に近づける。



まるで恋人同士、愛を囁き合っているよう。




私と、俊太郎さまと知らない女の人の間を、新選組の隊士たちが忙しなく行き交う。



私以外の女の人と俊太郎さまが二人きりでいるのを初めて見た。



いつの間にか、あんなに賑やかだった喧騒も消え失せ、艶やかな夜の町も褪せて色を無くす。



私の目にはただ、二人だけがやけに色濃く眩しいくらい目に映っていた。



そして新選組が見回りを終えたのを見計らったように、二人は親しげにお店に入っていく。



私はその場に立ち尽くし、二人が消えていった艶やかな暖簾を見つめていた。




「――ん…はん…?○○はんってば!」



「…!…花里ちゃん……」



「どないしはったん、顔色ようないな。具合でも悪いん?」



「ううん……大丈夫だよ!……一緒に帰ろう」




無理やり笑顔を作ったら、何故か涙が込み上げてきた。



それを花里ちゃんに気付かれないように、彼女の少し前を歩いた。






―――



後ろ手に襖を閉めると、真っ暗な部屋の中にへたりと座り込む。



さっきの二人の姿が、脳裏に鮮明に焼き付いていた。



・・・綺麗な女(ひと)だった・・・



身長も高くて、スタイルも良くて、色気もあって、頭もよさそうで・・・



『才色兼備』という言葉がよく似合うと思った。



・・・あの女、私にないもの、全部持ってた・・・



誰もが認めるお似合いの二人。



最近、俊太郎さまが来ないのは、島原にじゃなくて、



私のところに来なかっただけだったんだ。



やっぱり、私みたいな子供じゃ駄目なんだ。



そうだよね・・・



大人の冗談もわからずに、言われた言葉にいちいち一喜一憂して、



すぐ本気にして、勝手に恥ずかしくなって、赤くなって・・・



キスだって、満足に出来ない・・・。



人生経験も恋愛経験も豊富な、大人な俊太郎さまが、そんな子と一緒にいたって・・・。








―――



子供な自分が悔しくて、結局昨夜は一睡も出来なかった。




でも、このままじゃ嫌。



ちゃんと彼の口から、気持ちを聞きたい。



そうじゃなきゃ、納得できない…。



でも怖い…。



どう切り出そう、なんて聞こう、どんな答えが返ってくるだろう・・・。






考えているうちに夜のお座敷の時間がやってくる。



送り出してくれた番頭さんに、笑顔やで、とひと言添えられて、



初めて自分が難しい顔をしていることに気づく。



・・・そういえば、今日一度も笑ってない・・・





呼ばれたお座敷の襖の前で、笑顔、笑顔、と心の中で繰り返しながら、気持ちを切り替える。



お座敷はきちんと務めないと。藍屋の看板に泥を塗るわけにはいかない。



きゅっと口角を引き上げて、襖の向こうに声をかける。




「失礼します、藍屋の○○です」




そして、開けた襖の先にいた人物に、私の笑顔は凍りつく。



そこにいたのは、俊太郎さまと・・・・俊太郎さまにお酌をする女の人。



昨日、俊太郎さまと一緒にいた女の人だった。



私が来るまで、お座敷で二人きりだったのかと思うと、心がざわざわと騒ぎ出す。



襖を開けたまま立ち尽くす私から、俊太郎さまは気まずそうに目を逸らした。



それを見て、私は・・・





★★★★★選択肢★★★★★




【壱】 きっと何か理由があるはず…。→とりあえずお座敷の中に入った




【弐】 なにそれ!もう…俊太郎さまのばかっ!→お座敷を飛び出した
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