●○特別○●
□PLUS★睦言に詫言
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・・・またわてを置いてけぼりにして・・・
夢の中にイッてしまった○○の柔らかな頬を指の背で撫でる。
「…んゃ」
甘ったるい声を上げて身じろぎする○○は、まるで仔猫のように愛らしいのに・・・
なのに、首筋から胸元にかけて刻まれた無数の情交の紅痕が、
つい先刻までは、私の腕の中で女になっていたことを思い出させる。
その落差にいつも翻弄されながら、どんどん彼女に夢中になっていく。
いつも○○は最後には気を遣ってしまうか、すぐに眠りに落ちてしまう。
そんな彼女を腕に抱いてその無防備な寝顔を眺めるのは私だけの特権で、
楽しみの一つではあるのだけれど。
まだ夜も更けきらないうちに、すやすや寝息を立てている○○が少しだけ憎らしくて、
鼻の頭をツンツン押してみたり、顎下を擽ってみたりしてみる。
「…んぁ…俊太郎さまぁっ、…もう、だめ……」
唐突な艶っぽい声色にどきりとした。
・・・夢の中までも、わては○○を抱いとるのか・・・
我ながらその強欲さに苦笑して、夢の中の相手が他の男でなくて良かったと心底安堵した。
大胆な寝言を放って、それでもまだ目を覚ましてくれない○○の手を取り、甲に唇を押し付ける。
そのまま舌先で中の指をなぞって指先にまた唇を落とした。
ぴくん 僅かに動いた指の先を少しだけ囓ると、瞼かうっすら開く。
・・・ようやっと起きてくれた・・・
「……んっ……俊太郎、さま……?」
「おはようさん」
「…ぇ?もう朝ですか……?」
まだ半分夢の中にいるような○○に笑って、寝ぼけ眼の瞼を唇で触れる.
「まだ、時の鐘も鳴ってへん…」
「んん…」
「まだ日付も変わっておまへんのや。もう少し、わてを構うて?」
ふわぁ と小さくあくびをして、潤む眠たそうな瞳がこちらを見上げてくる。
「……煽ってはるの?……」
○○は何の事かと小首を傾げる。
・・・これやから困る・・・
無意識に男心を弄ぶ、つくづく罪深いひとだと思った。
まだあり余していたソコが満ちてきているのを感じている。
「まだまだ、足りひん……」
○○をその気にさせたくて、うなじを撫で上げる。
「…あ、ゃ…だめ…」
その声と表情でわかる。
○○が今何を思っているのか。
けれど、あえて意地悪く聞く。
「なにが、あかんのどす?」
言いながら、耳縁をわざと厭らしい手つきでなぞる。
「…っ、意地悪…」
「言うてくれへんと、止めてあげへん……」
「で、も……明日もお勤めがあるから…ダメっ、です…」
そんなことは理由にならないと口で言う代わりに、○○の舌を絡め捕る。
一度吐き尽くしたはずの熱は、再び隆々と滾っていた。
★〜★〜★
重たいような、ふわふわ飛んでいきそうな・・・
不思議な疲労感に包まれるおかしな体で、布団を鼻まで被って俊太郎さまを睨みつけた。
「……すんまへん」
困ったように整った眉を下げる俊太郎さまを無視して、私は布団の端をきゅっと握りしめ、頭まで潜る。
「○○…」
あの後、求めてくれる俊太郎さまを拒むこともできず、彼を受け止めたカラダはくたくただった。
俊太郎さまにたっぷり愛された翌日は、たいてい足腰が立たなくなる。
夜のお座敷にも影響が出るほど。
もう、すでに自力で起き上がれない。
だから・・・・・
「…ダメだって、言ったのにっ」
夜のお座敷は風邪気味だとか適当に理由をつけてお休みをもらおう。
これじゃあ、まともに座ってるいことすらできない。
「ほんに、すんまへん……なんでもそうや。○○のこととなると、どうにも自制が利かへんようになる」
「……」
彼の言い訳に口を尖らせながら、布団の中で密かにほくそ笑む。
本当は嬉しいんだ。
いつも余裕綽々で、町を歩けば女の子達の視線を独り占めにしてしまうような彼が、
私なんかに我を忘れてしまうほど夢中になってくれるなんて・・・
ちょっとした優越感が心地好かったりする。
だからこんな時、悪戯心が疼く。
「…○○、……仲直りしまひょ」
「……」
「あんさんと喧嘩したまま帰るなんてできひん。
仕事も手につかへんようになってしまうさかい……頼んます」
「……」
もう少し焦らせば、彼はどうするのだろうかと、じっと待ってみる。
・・・・待っていると、突然爪先を何かにつつかれた感触にびくりとする。
顔はしっかり隠したけれど、その分布団から爪先がはみ出ていた。
頭隠して尻隠さず。
無視しているとまた ちょんちょん と彼の爪先がつつく。
足をばたつかせて抵抗すると、くすくすと笑う声が聞こえてくる。
「もうっ!なんですかっ!」
「○○の顔が見たい…出てきておくれやす」
「やです」
そう言って、膝を折り曲げ、爪先も布団の中に収めて、最後の抵抗にと、俊太郎さまにぷいと背を向けた。
これで完全防備だ!
しかし、背筋をぞわっとしたものが這い上がった。
背中が出ているらしい。
擽ったさに肩を竦めながら、背をなぞる俊太郎さまの指に神経を集中させる。
と・・・・
こ ゛
め
ん
「…っ」
想像もしなかった彼らしくない可愛い懺悔に、私の心は完敗した。
「んもぅ……!」
ごろんごろんと真横に二回ほど転がって、俊太郎さまから距離を取る。
「俊太郎さまからも、お休みもらえるように口添えしてくださいよねっ」
ぐるぐる巻きになった布団から顔だけ出して、警戒色を全面に押し出す。
「もちろんや。……何もしいひんさかい、隣に来ておくれやす」
切願する彼に半身だけ近づいて、きっちり布団にくるまって、私はもう寝ます、と目を閉じる。
・・・数秒後、隙間から侵入してくるものがあった。
気にせず、かたくなに目を閉じていると、探り当てた手の指を一本だけ、控えめに握られる。
強くも弱くもない力加減が、何だか切ない。
私を怒らせてしまったことを反省してるみたい。
そんな彼らしくない甘えたような仕草に、思わずその表情を確かめたくなる。
・・・確かめてしまって後悔する。
裸体のままうつ伏せに寝転んだ俊太郎さまの、憂いを帯びた瞳がこちらを見ていた。
まるで二人果てた直後のような、色香を纏うその表情に一瞬目眩を覚え、
動揺を悟られないうちに、慌てて天井に顔を向け目を閉じた。
握られていた一本から彼の手が離れていく。
少し意地悪し過ぎたかな、と申し訳なさを感じたのも束の間。
すぐに五本の指が絡んでくる。
やけに艶かしいその手つきに、私は警戒を強めた。
「こっ…これ以上は、もう本当に絶対だめですからね!」
「へえ」
言ったそばから、私の手を口元に運んでいく。
そのまま唇を押し付けて、もちろんそれだけでは飽き足らず、
指先を唇で挟んで ちゅぱっ とわざと音を立てて舐め上げる。
思わず甘い吐息が漏れそうになるけれど、そこはぐっと堪える。
今の俊太郎さまに隙を見せては駄目だ。
「……中に入っても、ええ?」
「だから…っ!」
「布団の中どす」
「ぁ…」
「……今、何を想像しはったん?」
恥ずかし過ぎる勘違いに気付いて、にやりと笑む俊太郎さまに必死に言い訳を捜しているうちに、
彼はするりと布団の中に体を滑り込ませる。
「……ふふ、ええ加減にしときまひょ。せっかく仲直りしたのに、また怒られてまう」
手を離した彼の手は私の頭を包み込むように抱き寄せ、反対の手は優しく髪を撫で始める。
頬桁に落ちた唇を感じながら、再び私の意識は夢の中へ・・・。
――――
朝日の眩しさに目をしょぼしょぼさせる私を布団の中に残して、俊太郎さまは身支度を整える。
襖の向こうに衣擦れの音を聞きながらうとうとして・・・・
ほんの数秒、意識が曖昧になった中で誰かの話声が聞こえてくる。
ひとつは俊太郎さまの声だってわかった。
もうひとつは・・・・どこかで聞いたことがあるようなないような?
ぼんやり考えているうちに眠りに落ちる寸前、耳元で囁く俊太郎さまの声に呼び戻される。
「○○……ほな、一旦わては帰ります。あんさんはまだ寝ててええよ」
「いったん……?えっ、でもお昼までに部屋は空けないと……」
「今、明日の朝までこの部屋を取りました。
ほんで、○○も。明日の朝まで、わてのもん」
「…えぇ!?」
「仕事があるさかい、わてはひとまず帰りますけど、夜にまた来ます。
それまであんさんはここで休んどいて。体、しんどいやろう?」
「……」
唖然とする私の表情を彼がどう受け取ったのかはわからないけれど、
言葉を失う私の髪を撫でつけ、耳元に口寄せ、甘い声が囁く。
「心配せんでええ。約束します。……今夜は、優しゅうすると……」
ちゅ と、啄まれた唇に ぽっ と、頬に熱を灯し、離れていく手を寂しく思いながら・・・・
甘い余韻にうっとり・・・・誤魔化されそうになって、はっと我に返る。
「!!…待っ…」
そういう問題じゃないです!
言いそびれて・・・・
夜までゆっくり休んどって、とご機嫌な微笑みを残して、俊太郎さまは”一旦”帰っていった。
一人残された布団の上、さっきの恐ろしい囁きを思い出してぞっとしながら、
私は出来る限り体力を回復させるため、俊太郎さまが戻ってくるまで全力で眠ったのだった。
おわり☆ミ