●○特別○●

□PLUS★恋するカフェオレ
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〜#1〜



「いらっしゃいませ」



「カフェオレミルク多めで」



「かしこまりました」




日曜日の昼下り。


英字を含める新聞を何冊か持って来店する彼。



遠くの方で聞こえる黄色い声。



彼が来るとバックヤードがざわつく。



押し付けられる形でいつもオーダーを取りに行く私は、



自由気ままな独り暮らしに憧れて、大学進学を理由に上京してきたけれど、就活に失敗。



現在、職なし彼氏なし。



今は親からの仕送りと、カフェでアルバイトをしながらなんとかやりくりしている。





「よくフツーに話せるね」



「緊張し過ぎて、私、絶対ムリ〜」



「目が合っただけでヤバいし」




そう?と、首を傾げながらミルク色のカフェオレをトレイに乗せる。




「おまたせいたしました」



「…ありがとう」



「ごゆっくりどうぞ〜」




とびきりの営業スマイルはプライスレス。



正直、こういうルックのいい男は信用しない。



大抵、自意識過剰の性格ブス。



それが私の彼に対する第一印象だった。







〜そんなある日〜


大学時代お世話になった先輩、高杉先輩が居酒屋を始めたらしく、



オープン前日に知り合いを招待するから、お前も来い、



と、渡された四角と直線だけで書かれた、極めてシンプルな手書きの地図を片手に、



私は夜道をひとり歩いていた。



のだけれど・・・・




「あれぇ…?」




地図によると駅から徒歩10分のはずなのに、



かれこれ30分以上同じところをぐるぐるしてる気がする。



辺りは街灯も少ない雑居ビルの立ち並ぶ入り組んだ路地。



居酒屋はもとより、お店らしきものがある雰囲気はゼロ。




あぁ・・・



これは・・・



つまり・・・



アレだ・・・




「迷子だ…」




そう気付くまで、自分が方向音痴だということを忘れていた。



こうなったら、直接聞いてしまった方が早いと思い、高杉先輩に電話をかける。



プルルルルルル…プルルルルルル

…プルルルル…プルルルル…プルルルル…




「……出ないし」




仕方なく携帯を鞄にしまって、また歩き出す。



心細いせいか、足は無意識に明るい方へ向いていく。



そして、ひたすら勘で歩き続け辿り着いたのは、



光るネオンが真昼のように明るいお店がたくさん並んでいる賑やかな場所だった。



きっと、この並びに先輩のお店もありそうだ。



今回は勘が冴えてるかも!と自画自賛しながら、一件、一件見て回る。



見て回りながら・・・見れば見るほど、異様な雰囲気に気付く。



やたらと目につく派手なピンク色。



一刻も早く引き返さなければ、と振り返ると同時に、




「お姉さん!」



「いゃあっ!!」




私の進路を塞ぐように、見るからにヤバい系のお兄さんが立ちはだかっていた。




「そんなに驚かなくても……。ねぇ、遊んでいかない?」



「いえ、行かなきゃいけなあところがあるので…」



「そんなこと言わないでさぁ、サービスい〜っぱいしてあげるからさっ!ね?」



「ごめんなさい、急いでるんで…」




一歩踏み出した私の手を、お兄さんの手ががしっと捕まえる。




「ちょ…やめてください!」



「欲求不満なんでしょ?それが目的でここに来たくせに……」




耳元で囁く声が気持ち悪くて、ゾクッとした。




「離して下さいっ!」



「…痛って!」




チャラい笑顔を引っ込めて、お兄さんが眉間に皺を寄せる。



強く振り払った手は、傍にあった看板に強打していた。




「…っ!ご、めんなさい!」



「あ〜あ、血が出てる〜……どうしてくれんだよ?」




そう言われて、咄嗟に鞄から絆創膏を取り出して渡す。




「ふんっ、ガキじゃあるまいし」




鼻で笑われて、出した手を払われた。



じり、と詰め寄って、お兄さんは鼻先が触れるほど近くまで顔を寄せてくる。




「お詫びにウチで遊んでってくれるっていうなら……許してやるよ」



「そ…それは……」



「――こないな場所で何をしとるんや」




唐突に聞こてきた、少し苛立ちの混じる声にびくりとして振り向く。




「…あ…」




カフェオレミルク多めの彼がいた。




「行くで…」



「ぅえっ!?あの!?」




何がなんだかさっぱりわからないまま、彼に強引に手を引かれ、



後ろでお兄さんの舌打ちを聞きながら、私は歓楽街を後にした。




「あ、あの!ちょっと…」




私の声も無視して、彼はずんずん早足で歩いていく。



そして、いくつか角を曲がったところでようやく立ち止まった。




「……乱暴にしてすんまへんでした」




手を離して、申し訳なさそうな笑みをこちらに向ける彼。




「………あ、いえ…」



「知り合いの店に行く途中でたまたま通りかかったら、言い争うような声が聞こえて、

何気なく見てみたら何や知っとる顔やって、困っとるようやったから、声をかけたんやけど……

迷惑どしたやろか?」



「いぃぃえ!助かりました!
あの…助けて頂いて、本当にありがとうございました…」



「ほんなら良かった。……で、貴女は?こんなところに何故?

夜道の女性の一人歩きは危険や。よければ目的地までお供しましょ」




彼の言葉を聞きながら、しばしポカンとしてしまう。



勝手に作り上げていた彼のイメージとは全く違った、意外にも紳士的なその姿勢に、



少し戸惑いながら、握り締めていた地図を広げて見せる。




「ここに行きたいんですけど……」




さっきの緊張のせいで、地図は手汗でくたったうえに、



一部、ボールペンのインクが青く滲んでいた。



・・・手汗、恥ずっ!・・・




「あぁ、奇遇やね」



「…え?」



「わてもここにいく途中や」




#2へ続く――
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