●○短篇○●

□初めてのバレンタイン
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偶然にも、14日に俊太郎さまから逢状が届いた。



半ば諦めていた、バレンタインの夜を俊太郎さまと過ごすこと・・・。



今朝それを秋斉さんから聞き、慌てて準備に取りかかり、



夜のお座敷の時間までになんとか間に合った、手作りのおしるこ。



せめてものバレンタイン感を出すために、ハート型にした白玉。



バレンタインを大好きな人と過ごせる嬉しさと緊張で



どきどきする胸を押さえながら、俊太郎さまのお座敷に上がる。



いつものように挨拶を済ませて、いつものように、俊太郎さまにお酌をする。



いつもとなんら変りのない、俊太郎さまとのお座敷。



だけど今日は・・・



・・・どう切り出そう・・・いつ渡そう・・・



私の心臓だけが忙しない。



そんな私の様子に気付いたのか、



私の傍らに俊太郎さまから隠すように置いていた、



お盆の上の蓋付きのお椀を不思議にそうに見ながら、俊太郎さまが尋ねる。



「・・・○○はん、それは、なんどすか?」



どきっと心臓が跳ねる。



まだ心の準備が出来てないのに・・・・



でも、聞かれたからにはもう答えるしかない。



「・・・・あ、あの・・・・

俊太郎さまに食べて頂きたくて・・・作ってきたんです・・・・・」



緊張しながらおずおずと俊太郎さまの前にお椀を差し出す。



唐突な贈り物に、俊太郎さまは少し驚いたような表情をする。



「・・・・私の故郷の風習で・・・・・」




――俊太郎さまにバレンタインとハートの意味を説明をする。




「・・・へえ、そないな風習があるんどすか・・・・・

・・・ほんで、これをわてに・・・・?」



「・・・は、はい・・・」



「・・・これは・・・本命・・・?」



バレンタインの意味も、ハートの意味も・・・・



全てを知った俊太郎さまにそう聞かれて、ぽっと頬が赤く染まる。



「・・・・もちろん、です・・・」



私はますます顔を赤くして、蚊の鳴くような声で答えた。



恥ずかしすぎて、俊太郎さまの顔を見ることができず、



俯いたままの私の耳に、



彼のくすくすと楽しそうに笑う声だけが聞こえる。



「お口に合うかどうか分かりませんが・・・」



「おおきに。・・・・ほな、さっそく頂きます」



そう言って、俊太郎さまは



ハート型の白玉を匙で一つ掬って、口に運ぶ。



どきどきしながら、彼の顔を窺う。



それから俊太郎さまは、ふっと口元を緩めて



「・・・美味しおすえ」



「・・・本当ですか・・・」



「あんさんがわてのために作ってくれたもんや。美味しないわけがあらへん」



優しい笑みを向けられて、



私も、嬉しさと恥ずかしさの混ざった、はにかんだ笑みを浮かべる。



「ほんまに美味しいさかい、あんさんにも一つ・・・・」



そう言って、俊太郎さまはまた一つ、



ハート型の白玉を匙で掬って、私に差し出した。



その匙を受け取ろうとして・・・・・



俊太郎さまの手がすっと逃げる。



不思議に思いながら、俊太郎さまの方を見ると、悪戯っぽく微笑む彼と目が合った。



「口を開けておくれやす」



「!!」



口を開けるって・・・・・つまり・・・・!?



動揺する私を、綺麗な微笑みを浮かべながら、



俊太郎さまは私が口を開けるのを待っている。



覚悟を決め・・・



心拍数を上げながら、小さく口を開く。



俊太郎さまの持った匙が、私の口の中にそっと運ばれ・・・



口の中に温かな甘さが広がる。



その時に少しだけ、下唇にあんこが垂れてしまって、



慌てて自分の指で拭おうとした



私の手を、俊太郎さまの手が止める。



どきりとしているうちに、



彼の顔が近づいてきて・・・・・・



ぺろり



舐めとった後に、



ちゅっ



ついばむような口付けをされる。



そうして、次の瞬間、肩を引かれ、



俊太郎さまの胸にぽすんと収まる。



耳まで真っ赤になった顔を上げられないでいると・・・



「・・・ふっ・・・・」



頭の上から、思わず漏れてしまったというような、



俊太郎さまの笑い声が聞こえた。



それを聞いて、私は思った。



彼を咎めるように見つめ・・・



「・・・・・もしかして・・・・・わざと・・・・・・?」



「・・・ふふ。すんまへん・・・」



悪びれもせずくすくすと笑う彼に



「・・・ひどいっ・・・・」



拗ねた振りをしてみせる。



でも心中は、嬉しくて・・・・



頬を赤らめたまま再び俯こうとする私の顎を彼の長い指が捕らえて、上を向かせる。




「あんさんがわてのために、用意してくれたこのしるこも、

それをわてに渡すのに、頬を林檎のように染めて恥じらっとる顔も・・・

全の仕草が、かいらしゅて、愛おしゅうて・・・・

・・・・つい我慢できひんで、ここも食べたくなってしもた・・・・」



そう言いながら、人差し指で私の唇をつんつんとつつく。



かあっと、顔から火が出そうな程頬が熱を持つのがわかった。



大人の色香を纏った、切れ長の妖艶な瞳に見つめられ、



恥ずかしくて目を逸らしたいのに、逸らせない。



手のひらで私の頬を包むようにして、親指で下唇を撫でながら、彼が言う。




「・・・もっと・・・ちゃんと味わわして・・・・」




そうして、言葉通り、



私の唇を味わうように・・・優しく、蕩けるような、



甘く深い口付けを繰り返して・・・・



俊太郎さまとの初めてのバレンタインの甘い夜は更けていった・・・・・・。





おわり☆ミ

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