●○短篇○●

□初めてのほわいとでー
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「……美味しい!」




「そらよかった。贔屓先の奥方に貰ろうたもんやけど。

なかなか手に入らん珍しい菓子らしくて。

あんさんにも食べさしたい思いましてな」





と言うのは口実で……





「ありがとうございます。本当、とっても美味しいです!」





その笑顔が見たかっただけやけど。





「あの方が選んだだけある……。品があって、優しい味でっしゃろ?」




「…………」




「……?」




「……その…奥方様は…どんな…方なんですか?」




「?…そやね…器量も良く、聡明でいて……
それなのに、気どらず…心も美しい方や」




「…………」






ん……?





もしかして…………





性悪男の悪い虫が騒いだ。






「……誰が見ても、美人言わはるやろうなあ。
思わず目を惹かれてしまうほどの……」





「へえぇ〜、さぞかしお美しい方なんでしょうねっ」






あ、ふくれた。






「…………」





「……なんですか」





「……妬いた?」





「別に…妬いてませんっ!」





「そんなら、こっち向いて」





「……嫌です」





「なんで?」







「………………」






「………………」











言うてくれるまで、いくらでも待ちますえ。







「んもうっ!意地悪……」






ふふっ。




そないなふくれっ面かて、わての邪な気持ちを煽るだけや。






それとも……わてを試してはるん?






○○はんの肩を軽く引き寄せると、




表情とは裏腹に、すんなりとわての腕の中に収まった。






「そないにかいらしく拗ねて、わてを弄ばんといて」





「……弄んでなんか……」






膨らませた頬を、赤く染めて、




小さく身を縮める彼女を、ぎゅっと腕の中に閉じ込める。






「今日は、先月の”ばれんたいん”の返礼をする日で、

”ほわいとでー”言う日らしいどすな」




「…何でそれを?」




「結城はんに教えてもろたんや」





わての腕の中から、




まだ少し膨れ面のかいらしい眉を寄せて、




上目遣いで見上げるもんやから……もっと甘やかしたなる。




「ばれんたいんには、○○はんから素敵な贈りもんを貰ろたしな。

わてもそれに見合うお返しをせなあきまへんな」






そう言って、額にひとつ口付けを落とすと、



彼女は恥ずかしそうに俯く。





その愛らしい仕草に、自分の頬が緩むのを感じながら、



返礼の品として用意した、桃の花をあしらった簪を懐から取り出し、





「…気に入ってもらえるとええんやけど」


そう言って、彼女の目の前に差し出すと、



俯いた顔を少し上げ、それを手に取り、




「……わあ、かわいい…」




かいらしい笑みを見せてくれた。




「…俊太郎さま…ありがとうございます」





さっきは少し、からかって言うてしもたけえど……



「……他の誰も敵わん。○○はんには、敵わへん……。

誰よりも…何よりも、あんさんが一番美しい。
わてが恋しいと想う人は、あんさんだけや…」




言いながら、桃の花の簪を髪に挿してやると、





「……私も………私も…俊太郎さまだけ……」





彼女は、より一層頬を赤く色づかせながら、わての胸に擦り寄り、



自分の気持ちも、素直に言葉にしてくれた。




”ありがとう”と”照れ隠し”の代わりに、



彼女を抱きしめる腕に、少しだけ力を込める。





「ほんに、あんさんはかいらしい…」




頬を林檎みたいにかいらしく染めてみたり、



かと思えば、それを膨らませて拗ねたふりをしてみたり、



嘘のない気持ちを伝えれば素直に喜ぶ。



そんな、ころころ変わる表情がたまらなく愛おしい。





もっといろんな表情を見せて。



そう思うと、もう少しだけ、いけずをしたくなってしまう。




「今日は、機嫌を損ねさせてしもたようやし……。

これだけでは…少ぅし足らへんなあ……」




「……そんなことないですよ…」



そう言って、はにかみながらまた俯く。



そのいじらしさが、余計にわてを煽るんや。





「今から見繕うのも、時間があらへんし……」



俯く彼女の顎を捕らえて、軽く引き上げ、しっかりと瞳を覗き込む。





少し怯えたような色をした瞳。



それがまた、わてを誘う……。




それもこれも気ぃついてへんから……また質が悪い。



せやから、教えたりまひょ。



わてにそないな顔見せたら、どないなるか。





「悪いんやけど、足りひん分は……これで我慢しとくれやす」




「…っ」





僅かに肩を跳ねさせた、○○はんの腰を



逃がさへんように、ぐっと引き寄せ、二人の隙間を埋める。



それと同時に、口付けを深め……



大人しくしている彼女の舌を、自分の舌で絡め取って……




――気の済むまで彼女を味わいつくし……



唇を離して、視線を合わせると……



少しだけ瞳を潤ませ、名残惜しそうに見つめ返してくる。











……せやから……









「…んんっ……」








またすぐに欲しなるんや……。





おわり☆ミ

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