●○短篇○●

□五感/モモノハナビラ
1ページ/2ページ

<五感>



ひょんなことから、どちらが酒に強いかと

言い争いになった、龍馬さんと高杉さん。



「そこまで言うなら、勝負じゃ!高杉!」



「ほう、俺に勝負を仕掛けるとはいい度胸だ。

 ……いいだろう。受けて立つ」



「○○、どんどん注げ!」



「おお○○、わしにもじゃ!」



「ええ歳して……」


二人から少し離れたところで、優雅に杯を傾ける俊太郎さま。


そうして、私は龍馬さんと高杉さんの間に座らされ、

二人に交互にお酌をし続けた……







――数時間後――






「……もうそろそろ、やめませんか?

二人がお酒が強いことは十分わかりましたから……」



「……いや、まだ…まだ……」



呂律の回らない状態でひと言そう残して、

龍馬さんはその場に倒れ込んだ。



「なんだ、もう終いか?
でかい図体して、たいしたことはないな……」



そういう高杉さんも、限界だったようで、

壁を背もたれにしてがくりとうなだれた。



「……やっと決着がついたようどすな。引き分けや」




「……はあ…私、お水貰ってきますね」




――――




お水を貰ってお座敷に戻っくると……



二人とも、呼びかけても全く返事がなくて、

完全に酔い潰れて眠ってしまっているようだった。





「すみません、手酌にさせてしまって……」



二人に拘束されていたせいで、全く俊太郎さまの相手をせずに

一人にさせてしまっていたのを、今更申し訳なく思って、

お酌をしようと、お銚子に手をかけ、持ち上げようとして……

俊太郎さまがそれを、そっと制する。



「……?」



「……今度は、わてが楽しませてもらいまひょ」



「きゃっ……」



妖しげな笑みを浮かべた俊太郎さまに、その手をくいっと引かれ、

彼の胸に倒れ込むように抱き寄せられる。



驚きながら、抱き寄せられたまま彼を見上げると、

すっと細めた切れ長の目が、その妖艶さを増した。



どきり、と心臓が跳ねる。



さらに彼は私の腰に手を回し、ぐっと引き寄せ、

胡坐を掻いて座る自分の足の間に座らせ、

私は、俊太郎さまを座椅子にして座るような体勢になった。



俊太郎さまの行動に、私の頭が混乱する中……



……突然、視界が真っ暗になった。



「……!…俊太郎さま……?」



「視覚が奪われると、他が敏感になる言いますやろ?」



「……え?……」



どうやら、目隠しをされたようだ……。





そうだと分かると、

これから起こることが、何となく想像できて、

徐々に鼓動が速まっていく。





ふいに、耳元で低いく甘い声が響く。




「○○はんが二人の相手をしている間、
わてのことはほったらかしや……そろそろわても構うて」





背筋がぞくリとした次の瞬間――





耳朶を食むように、唇で優しく挟まれる。




「……っ……」




声が零れてしまいそうになるのを、なんとか吐息だけて堪える。





……すぐ傍には、龍馬さんと高杉さんがいる……



今の二人の様子を窺う事も出来ない……




もし、こんなとこ見られたら……どうしよう……



そんな私の心配をよそに、

俊太郎さまの自由に動き回る舌が私を弄ぶ。



耳の縁をなぞるように、したさきが行ったり来たり……




背筋をぞわぞわと何かが這いあがるような感覚に、必死に耐える。




「……んっ……」




突然、耳朶を噛まれ、

堪えていた声が、小さく零れ落ちてしまう。




彼がくすっと笑う声が聞こえた。




すると、今度は首すじに唇が触れる。




「……しゅん、たろう、さま……」


「……うん?」




その声色から、彼が楽しんでいるのがわかる。




「……龍、馬さん、と…た、高杉が……んっ……」


「大丈夫。二人ともよう寝てはります」





言いながら、首筋から肩にと……ちゅつ、ちゅつ、と……




態と音を立てるように、口付けを落としてく……。




視界が奪われてた分、その音がやけに大きく聞こえる。




「……はあっ……」




思わず声が零れると……




「我慢してはるのも、かいらしい・……」




私の肩口に顔を埋めながら、俊太郎さまが囁く。





私の顎の下を、猫をあやす時のように、

こしょこしょ、とされ、くすぐったさに肩をすくめると、

そのまま顎をくいっと右後ろ方向に引かれ……




私の唇に温かく柔らかいものが触れた……。




「……んんっ……」




それが彼の唇だと理解するのと同時に、舌が割って入ってくる。




「……んっ…んん……はっ……」




わずかな隙間から、必死に息継ぎをすると、

彼の熱い吐息と一緒に、強いお酒の香りを吸い込む。





……俊太郎さま、少し酔ってる……?





そんなことを考えている間に

顎に触れていた手がするりと下降して……




襟もとの合わせ目から、少しひんやりとした彼の手が忍びこんできた。





「!!……俊太郎さまっ!……だ、だめ…です……」





声を殺しつつ、彼に訴える。





「あんまり大きい声を出さはりますと
……二人が起きてしまいますえ……」




意地悪く言いながら、胸元をやわやわと優しく触れられ、
さらに鼓動が速さを増していく。




柔らかい部分にしか触れてくれないのが

より一層、私の厭らし欲求を掻き立て……

優しく弄るだけでは、物足りなさを感じる自分に恥ずかしくなる……。




その間も、私の口内を隅々まで味わうような

彼の深い口付けは止まらない……。


彼から与えられる、甘くも煽情的な口付けに

思考を奪われそうになりかけた時……

やっと彼の唇から解放される。



ぐったりとして、俊太郎さまの胸板にだらしなく自分の背中を預ける。

荒い息を整えながら、息も絶え絶えに彼に問う。





「……しゅ、んたろう、さま…なんで、こんなことを……」




「わてのことをほったらかしにするからや……」





私の耳に僅かに唇を触れさせながらそう囁く、

低く響く彼の声は、完全に力の抜けた私の体には、

それだけで…………



私の胸元を弄んでいたその手が、今度はふくらはぎを這う。



「!!」



脱力していた私の体が、再び緊張で硬直する。





つーっと膝の近くまで上がってくると……



さっきまでは触れることのなかった着物で覆われていた肌に、

冬の冷えた空気が触れ……

自分の着物の裾が肌蹴ていることに気付く。




足の外側を這っていた指先が、膝を境に、内側へと移動する。




それによって、また冷たい空気に触れる個所が増え……




「……俊太郎さまっ…だめっ……」




「しぃ」




彼の指先が、私の内ももの半分ほどまで辿り着いたところで……






「・……ん〜っ、ふあ〜……」




「!!」




大きなあくびとともに、衣擦れの音が聞こえた。




俊太郎さまが私の耳元で、今度は冷たく小さなため息をついた。



「……間の悪いお人や……」




すると、ぱっと視界が明るくなって……。




視線の先にはこちらに背を向けた状態でむくりと起き上がった

龍馬さんの姿が見えた。


俊太郎さまが肌蹴た私の着物の裾を、すっと直してくれる。


龍馬さんは、まだ夢の中にいるように、寝ぼけ眼をこすりながら

きょろきょろと当たりを見回した後、私と目が合う。


完全に体の力が抜け、頭がぼおっとしていた私は、

自分がまだ俊太郎さまの胡坐の間に座っていることを忘れていた。


はっとして、慌てて俊太郎さまから離れる。


顔を真っ赤にする私を、俊太郎さまがくすっと吐息で笑う。




「…坂本はん、そろそろ大門が閉まりますさかい、帰りまひょか」

「おお、もうそんな時間かえ?……ほい、高杉、起きろ」

「…んん?…」


龍馬さんに起こされ、目を覚ました高杉さんは、

顔を真っ赤にしている私を見て……


「……ん?どうした○○。酒でも飲んだか?」


「飲んでませんっ!」


口を尖らせてそう答えると、

それを見た俊太郎さまが、また可笑しそうに肩を揺らして笑う。


……性悪男……


心の中でそう呟きながら、俊太郎さまを睨む。





―――



「……今日はありがとうございました。

お気をつけてお帰り下さいね」



龍馬さんと高杉さんに手を振る。

「はは。どうやら子猫の機嫌を損ねてしもたようや」



「続きは、また今度……」



「モモノハナビラ」に続く>>
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ