●○半篇○●

□星逢う夜
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競い合うように煌めく満天の星空の下 清らかに澄み渡る空気に包まれ



下界とは切り離されたような空間に 厳かに佇む毘沙門堂





その一室



灯りをすべて消し去り 空から降り注ぐ蒼白い光が部屋を染める



開け放った障子戸 縁側を枕に二人ごろんと仰向けに寝転んで



俊太郎さまの腕枕から逆さまに見上げる散りばめられた星屑




「きれい…」




彼の胸元に頬寄せ ぽつり 呟く



眩しいくらいに瞬く星々は 手を伸ばせば掴めそうで



感嘆のため息を零しながら 夢見心地で思わず天に向けて伸ばした私の手は



俊太郎さまの長い指が絡めとった



きれいに微笑む彼に照れ笑いを返して ふっくらとした私のお腹の上に繋ぎ合った手を乗せる




「……○○はんが織姫やのうて、ようおした」


「…?」


「あんさんに年に一度しか逢われへんやなんて、とても耐えられまへん」


「私も…そんなの嫌です」


「まあ、例え大川に阻まれても、わてやったら泳いであんさんに逢いに行きますけど」


「そんなことしたら怒られちゃいますよ?そしたら、もう二度と逢えないようにされちゃうかも」


「そやったら……いっそのこと、あんさんを攫うてしまいまひょ」


「ふふ…悪い人」




彼の冗談に笑いながら 織姫と牽牛を別つ大川を仰ぎ 二人に思いを馳せる




「織姫と彦星……無事に逢えたかな……」


「…ええ、きっと」


「未来では、七夕は雨の日が多いんです。それに、天の川も限られた場所でしか見れなかったり、

星だってこんなにたくさん見えないんですよ…」


「そら寂しおすなあ…」




途切れることのない他愛ない会話



そんなゆったりした彼との時間が かけがえのない幸せ




「きれいですね」


「…ほんに、美しい」


「ダイヤモンドの屑を散りばめたみたい…」


「だいやもんど?」


「あ、えっと……ギヤマン?」


「ああ、ほんまどすな…。
せやけど、こっちの方が宝石よりもずっと美しい……」


「……」




やけに機嫌の良い声色に まさかと思いながらそっと彼の方へ視線を向けると・・・・



思った通り 俊太郎さまとばっちり目が合った。




「……あの、俊太郎さま?……ちゃんと空、見てます?」


「いいえ」




悪気のない満面の笑みが当たり前のように言うから返答に困る




「ほんに綺麗や。あんさんの瞳に映る星は…」




やはり 彼がさっきから美しい…美しい…と言っていたのは星空ではなく




「私の瞳に映った星…じゃなくって……。
せっかく、こんなに綺麗なんだから…本物、見ないと勿体無いじゃないですか」


「星空を見上げてしもたら、○○が見えへん」


「七夕くらい…空、見ましょうよ」


「星逢う夜の空を見上げる麗しいあんさんの表情も、年に一度きりや。
それを見逃すわけにはいきまへん。ほんに美しゅうて、いくら見てても飽きひん。
そやし、○○の瞳を覗いとったら、その両方が見れる…」




相変わらずの俊太郎さまが私を溺愛する言葉には いつまでたっても馴れなることはない




「…もぅ…うまいことばっかり言うんだから……」


「思うたことを口にしただけや」




お決まりのやり取りをして 機嫌良く続く言葉が私に尋ねる




「今年は、何を願ったんどすか?」


「この子が、元気に生まれてきてくれますようにってお願いしました。

……俊太郎さまは?何をお願いしたんですか?」




その問いには 私と同じ答えが返ってきた




「身も心もすり減らしとった頃は、仰山願い事がありましたけど……
今はこうして、○○がわての隣に居る、抱き締めることができる、それに……」




緩やかな曲線を描く私のお腹を 俊太郎さまの大きくて温かな手が愛しげに撫でる




「ずっと願うとった夢も、もうすぐ叶う。今はただただ、○○もこの子もどうか無事に……。
これ以上願う事は何もありまへん」




幸せそうに微笑む俊太郎さまに



私も…



そう呟いて 体を擦り寄せて甘える私を彼は腕の中に閉じ込めて




「……きっと今頃、空の上では織姫と牽牛も、わてらのように甘い時を過ごしとることやろう」




長い指が髪を梳いていく心地好さにうっとり目を閉じる





ふいに額に触れた柔らかな熱に思わず視線を上げれば



待ち構えていたように唇を奪わる



彼の口づけは いつも蕩けるように 優しく 甘い



だから 離れていく熱が恋しくて つい追いかけてしまう



続きをねだるように 艶やかに光る下唇を幾度か啄むと



絡んだ視線の先で 俊太郎さまは少し切ない笑みを浮かべた






「…今は、あんさんを抱けへんことだけが苦や……」









おわり☆ミ

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