●○半篇○●

□コトのアト〜煙管〜
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――彼はすこぶる気分の良いときに限って、煙管を吸う――

















私は、ようやく解放されたカラダを力無く蒲団に埋めた。



震えるカラダを、湿らせた肉体美が労るように抱き寄せ、



暫くの間二人の荒い息づかいだけが響く部屋──。










私が落ち着きを取り戻したのを確認すると、彼は脱ぎ散らした衣の中を手探り、煙草盆を引き寄せ、枕を抱え肘をつく。



気怠そうにふわんと紫煙を燻らす横顔に、夢心地の瞼で見惚れた。



羅宇(らう)に添う長く節ばった指は、ついさっきまで花壺から蜜を掻き出していたもので…



吸い口を咥えた唇がすぱすぱとふかす様は、恥芽にしたそれと同じ。







煙管に我が身を重ね、触れられずしてまた追い込まれそう…







幾度も天を舞ったカラダはもう限界のはずなのに、本能はまだ飽き足らないと言っているようで…



自分で自分を猥(みだ)りがましいと思った。



ちら、と寄越された危うい流し目は、きっとそんな私の下心を見透かしている。



これ以上は目の毒だと、その艶姿から目を逸らし、くすり笑う機嫌の良い声を丸めた背中で聞きながら、



噛み締めた幸福感…それと同じ分だけ、彼が吹き出した紫煙のようにモヤモヤとしたものも胸いっぱいに広がった。



――情交のあと、彼に煙管を吸わせる女は私だけでありたい――



思ってしまったなら、ついイジワルな質問が口を吐く。




「…………ねえ、俊太郎さま…」

「ん…?」

「……私と逢わない日は……他の女のひとと…こういうこと、するの…?」




例えそうだとしても、それは彼の本位でないことも、仕事のひとつであることも理解しているつもり。



彼と一緒にいたいと願うなら、それくらいのことで動揺したり嫉妬したりしちゃいけない。



全てを受け入れ、どんと大きく構えていられるくらい強くなきゃいけない。



だからイジワルな質問の答えは『女はあんさんしか知らへん』なんて見え過ぎた嘘でいい。



そう言って、手放しに甘やかして欲しい。



それが彼の"遣り方"で、こちらもそれを望んでする拗ねたふり。



甘い言葉を並べられれば、私は簡単に流される…



なのに返ってきたのは期待外れの馬鹿正直な答えで、正直がっかりした。




「若い頃は……。形振り構わんかったからね…」

「……」

「そやけど、○○はんに出逢うてからは、他でこういうことはしてへん。せえへんと決めた…」

「……ほんと?」

「……………すんまへん、嘘吐いた…」

「…っ」

「……○○のカラダを知ったら、他の女なんぞ抱けへんようになってしもたんや…」




いつの間にか背後に寄り添う汗ばんだ体温…



そろりと伸びてきた熱っぽい大きな手に柔房を包まれて、耳縁を齧った悪戯な唇に女の部分がまた疼く。



やっぱり、彼には敵わない。



私の全てを知り尽くしている。



ただ優しい言葉で甘やかすだけでは満たされなくなっている、私を悦ばせる"遣り方"も…




「ぁっん…」

「…この罪作りな肌……憎らし…」




背骨のひとつひとつを辿るような口づけは、時折甘い痛みを与えながら…



…やがては汗で張り付いた後れ毛を払い首筋を狙う。




「だめっ…そこは…」

「…なんで?」

「だって…着物で隠せない…」

「見せつけたったらええ…。この体はわてんもんやと…」




首筋を庇う私の手を除け、刻まれた印からカラダじゅうに散らばる口づけの数だけまた熱を高められていく。



それは彼とて同じようで…



柔房を離れた手は、ヘソの延長線上をそろりそろり下りていき、行きついた先の濡れた芝丘を荒らす。



剥き出しの芽を指腹でつんと突かれると、自分でも驚くほど腰が大きく跳ねた。



また機嫌の良い笑いくすり笑が耳を掠める。




「…もぉ…ムリ…」

「……嘘や」




攻撃的な言葉とは裏腹に、離れていってしまう湿った体温…



その寂しさと、新たな身の危険を同時に感じた時は既に手遅れ。



天井を仰いだまま両足を閉じることができない状況になっていた。




「っだめ!汚れてる…」

「かまへん…」




言葉通り、迷わず寄せた唇はさっきの煙管をふかすそれと同じ…



自身の蜜と彼の白濁にまみれた赤く熟れすぎた果肉は、吐息がかかっただけでも果汁を、じゅわり、と染み出させる。





「ぁふっ…」

「ほら此処…餌を強請る鯉のように口を開けて……涎を垂らしとる…」

「やぁ…イジワル、言わないで…」

「先にいけずしたんはあんさんやろ……お返しや…」




きつく抱き合うようにして、滾る熱根をそのクチで咥え込むと、それだけで軽く達した。



更に揺さぶられると、間を置かず頂きを見る。



だけど、何故かそれだけでは満足できなくて、そのもどかしさを今日は特別素直に行動に移す。



殆んど無意識だった。



きっと痛かったと思う。



彼の首筋には、歯形に鮮血が点々と滲んでる。



でも謝らない。




「…俊太郎さまだって…私のもの…」




それが滲まなくなるまで舐め取ることをせめてもの償いにして…











──今度こそ気を遣った私の隣で、生々しい私の噛印を指先で撫でながら…



彼は煙管を吸う。









おわり。

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