●○長篇○●

□横恋慕
1ページ/19ページ

<1>



――それは、10日ほど前のこと。







久々に近くの公園へと足を運んだ。







子どもが遊べる遊具もあって、公園の中央には噴水付きの大きな池。




緑豊かな場所で、ハイキングコースも整備されている。




上京してから、仕事に行き詰ったり、



考えごとをする時は必ず来るところ。



池に面した場所にある、屋根付きの休憩所。



ここが私のお気に入りのスペース。



ベンチに腰かけ、池を眺めながら、あれこれ考えを巡らせる。





”ロスに支社を造る”



前社長が密かに進めていたことらしい。




一から会社を造り上げるなんて、初めてのことだし、



正直自信が無く、不安しかなかった。



・・・・やはり、自分には荷が重過ぎたか・・・・



進めるも辞めるも、自分の意向一つで決められる。



どうせ、元々自分の会社ではないし。



このまま全て丸投げして、逃げてしまおうか・・・・・。



なんて考えまで浮かんでくる。











―― 一年前。




総合商社に勤めている私は、



シンガポール支社を任せられていた。




ある日。



至急戻って来いと、本社から連絡が入り、



急いで日本へ戻ってみると、社長が急死されたとのこと。




跡取りのなかった社長は、



後継者について、親友に相談していたらしい。




その親友というのが、私が大学時代お世話になった教授。



経済界では名の知れた方で。



その講義を聞きたいと、海外からやってくる人も少なくはない。




お前が相応しいと思う人材を後継ぎにしたい。



適任者を推薦してくれるないかと、社長から頼まれていたそうで、



その中の候補として挙がってたのが私だったらしい。




周りも、お前なら文句はないと、



私がこの会社を継ぐことに賛同してくれた。




そうして、



ある日突然、私は総合商社の社長となった。










―――





噴水の飛沫音を聞きながら、



どれくらいそうしていだだろうか・・・・。




いつしか茜色の空は厚い雲に覆われ、



辺りは薄暗くなっていた。




・・・・ひと雨きそうだな・・・・




そう思った瞬間。












――ポツッ








――ポツ……





ポツ…ポツポツポツ――





ザーーー










突然、ゲリラ豪雨のような雨が降り出した。










◆◇◆◇◆主人公目線◇◆◇◆◇





夫は大手企業の若社長。



私はその社長夫人。




住まいは、セキュリティー万全、高級マンションの最上階。



誰もが羨むような、何不自由ない生活。





表向きは華やかに見えるけれど、



社長夫人も楽なものじゃない。





近所では顔が知れているから、



ちょっとそこまで買い物に出かけるにしても、身だしなみには気を使う。



頭のてっぺんから足の先まで・・・・ブランド品づくめ。



・・・本当はこういうのあんまり好きじゃないんだけど・・・



すべては夫の面子のため。






――




買い物は、散歩がてら徒歩で近所の大型スーパーへ。




本当は、家事も買い物も、



家政婦を雇ってやらせればいいと、夫は言ったのだけれど・・・。



自分で出来ることは自分でしたい。



全て家の事は私がすることにしている。






買い物中、カゴに入れる食材にも気を使う。



・・・・私は、安いものの方が美味しく感じたりするんだけど・・・・・



そう思いつつも、誰に見られているか分からない。



一番高い品物を手に取る。



これも夫の面子のため。







――




会計を済ませ、持参したトートバッグに食材を詰め込む。


ここまでブランド品。



・・・・傍から見たら嫌な女に見えてるんだろうな・・・・・



自分に苦笑を漏らしながら、


近道になる、大きな公園の敷地内を通って帰る。







――




子どもの頃からよく遊びに来ていた場所。


公園の中央にある、大きな池の大きな噴水が、私のお気に入り。



それを眺めながら、子どもの頃を思い出したりして。




遠くに聞こえる子ども達の楽しそうな声。



犬を散歩する人。ジョギングをして汗を流す人。



ベンチに座って、ぼーっと景色を眺めている人・・・・



それぞれが思い思いに過ごす、



そんなのどかな雰囲気の中にいると、



日々のストレスから少しだけ解放される気がした。






そうして、ぼんやりと飛沫を上げる噴水を眺めていると・・・



着信音が鳴り、一気に現実へと引き戻される。





□トラブルがあって今夜は帰れそうにない□





夫から。



用件だけの一行メール。



・・・・また無駄足だった・・・・



片手に下げたトートバックの中身を見て、


大きなため息をつく。




なんとなく気付いてる。



”トラブル” ”出張”



なんて嘘。





だけど・・・




家も、身につけるものも、全て一級品を与えられて。


これ以上の幸せなんてないと思っていた。



だから・・・



私は、自分で自分を騙しながら、



夫の秘めごとは、見て見ぬふりをしていた。







―――




水飛沫を上げる噴水を、ぼーっと見つめながら、



また大きなため息をつく。





どのくらいの間そうしていたのだろうか・・・。




いつしか辺りは薄暗くなっていて。



・・・そろそろ帰らないと・・・・



帰路に足を向けたところで・・・・・・










――ポツッ










「……?」










――ポツ……





ポツ…ポツポツポツ――





ザーーー






「うそ…雨!?」






・・・・さっきまであんなにいい天気だったのに・・・・・






突然、大粒の雨が降ってきた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ