●○長篇○●
□横恋慕
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――それは、10日ほど前のこと。
久々に近くの公園へと足を運んだ。
子どもが遊べる遊具もあって、公園の中央には噴水付きの大きな池。
緑豊かな場所で、ハイキングコースも整備されている。
上京してから、仕事に行き詰ったり、
考えごとをする時は必ず来るところ。
池に面した場所にある、屋根付きの休憩所。
ここが私のお気に入りのスペース。
ベンチに腰かけ、池を眺めながら、あれこれ考えを巡らせる。
”ロスに支社を造る”
前社長が密かに進めていたことらしい。
一から会社を造り上げるなんて、初めてのことだし、
正直自信が無く、不安しかなかった。
・・・・やはり、自分には荷が重過ぎたか・・・・
進めるも辞めるも、自分の意向一つで決められる。
どうせ、元々自分の会社ではないし。
このまま全て丸投げして、逃げてしまおうか・・・・・。
なんて考えまで浮かんでくる。
―― 一年前。
総合商社に勤めている私は、
シンガポール支社を任せられていた。
ある日。
至急戻って来いと、本社から連絡が入り、
急いで日本へ戻ってみると、社長が急死されたとのこと。
跡取りのなかった社長は、
後継者について、親友に相談していたらしい。
その親友というのが、私が大学時代お世話になった教授。
経済界では名の知れた方で。
その講義を聞きたいと、海外からやってくる人も少なくはない。
お前が相応しいと思う人材を後継ぎにしたい。
適任者を推薦してくれるないかと、社長から頼まれていたそうで、
その中の候補として挙がってたのが私だったらしい。
周りも、お前なら文句はないと、
私がこの会社を継ぐことに賛同してくれた。
そうして、
ある日突然、私は総合商社の社長となった。
―――
噴水の飛沫音を聞きながら、
どれくらいそうしていだだろうか・・・・。
いつしか茜色の空は厚い雲に覆われ、
辺りは薄暗くなっていた。
・・・・ひと雨きそうだな・・・・
そう思った瞬間。
――ポツッ
――ポツ……
ポツ…ポツポツポツ――
ザーーー
突然、ゲリラ豪雨のような雨が降り出した。
◆◇◆◇◆主人公目線◇◆◇◆◇
夫は大手企業の若社長。
私はその社長夫人。
住まいは、セキュリティー万全、高級マンションの最上階。
誰もが羨むような、何不自由ない生活。
表向きは華やかに見えるけれど、
社長夫人も楽なものじゃない。
近所では顔が知れているから、
ちょっとそこまで買い物に出かけるにしても、身だしなみには気を使う。
頭のてっぺんから足の先まで・・・・ブランド品づくめ。
・・・本当はこういうのあんまり好きじゃないんだけど・・・
すべては夫の面子のため。
――
買い物は、散歩がてら徒歩で近所の大型スーパーへ。
本当は、家事も買い物も、
家政婦を雇ってやらせればいいと、夫は言ったのだけれど・・・。
自分で出来ることは自分でしたい。
全て家の事は私がすることにしている。
買い物中、カゴに入れる食材にも気を使う。
・・・・私は、安いものの方が美味しく感じたりするんだけど・・・・・
そう思いつつも、誰に見られているか分からない。
一番高い品物を手に取る。
これも夫の面子のため。
――
会計を済ませ、持参したトートバッグに食材を詰め込む。
ここまでブランド品。
・・・・傍から見たら嫌な女に見えてるんだろうな・・・・・
自分に苦笑を漏らしながら、
近道になる、大きな公園の敷地内を通って帰る。
――
子どもの頃からよく遊びに来ていた場所。
公園の中央にある、大きな池の大きな噴水が、私のお気に入り。
それを眺めながら、子どもの頃を思い出したりして。
遠くに聞こえる子ども達の楽しそうな声。
犬を散歩する人。ジョギングをして汗を流す人。
ベンチに座って、ぼーっと景色を眺めている人・・・・
それぞれが思い思いに過ごす、
そんなのどかな雰囲気の中にいると、
日々のストレスから少しだけ解放される気がした。
そうして、ぼんやりと飛沫を上げる噴水を眺めていると・・・
着信音が鳴り、一気に現実へと引き戻される。
□トラブルがあって今夜は帰れそうにない□
夫から。
用件だけの一行メール。
・・・・また無駄足だった・・・・
片手に下げたトートバックの中身を見て、
大きなため息をつく。
なんとなく気付いてる。
”トラブル” ”出張”
なんて嘘。
だけど・・・
家も、身につけるものも、全て一級品を与えられて。
これ以上の幸せなんてないと思っていた。
だから・・・
私は、自分で自分を騙しながら、
夫の秘めごとは、見て見ぬふりをしていた。
―――
水飛沫を上げる噴水を、ぼーっと見つめながら、
また大きなため息をつく。
どのくらいの間そうしていたのだろうか・・・。
いつしか辺りは薄暗くなっていて。
・・・そろそろ帰らないと・・・・
帰路に足を向けたところで・・・・・・
――ポツッ
「……?」
――ポツ……
ポツ…ポツポツポツ――
ザーーー
「うそ…雨!?」
・・・・さっきまであんなにいい天気だったのに・・・・・
突然、大粒の雨が降ってきた。