●○短篇○●

□繋
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<繋〜逢不>



霊山護国神社、竹林寺、福勝寺。



この三カ所を順に回り、最後に毘沙門堂を訪れる。



現代に戻ってきてから毎年必ず、お盆に合わせてする私の恒例行事。





―――私は京都にいた。


翔太くんと一緒に。



霊山護国神社には龍馬さんと高杉さんのお墓もある。



”ついで”なんて言ったら怒られるだろうけど、



俊太郎さまの墓碑に挨拶をした後、二人のお墓にも手を合わせる。



せっかく私のことを気遣って言ってくれた翔太くんには申し訳ないけれど。



私は俊太郎さまには逢わないことを選んだ。



亡くなった人にもう一度逢えるという話を信じてないわけじゃない。



ただ逢わない方がいいと思ったから。



だって逢ってしまったら、きっとまた彼に甘えてしまう。



いい加減、私も強くならなくちゃいけない。



記憶が戻ってから、俊太郎さまのことを忘れたことなんて一度もない。



町中を歩いていても、彼に似た後姿に声に、心を掻き乱される。



もう一度カメラを使って幕末に戻れたら、また逢えるだろうか。



そんな”もしかしたら”という思いから私は逃れられず、



俊太郎さまのいない現実をずっと受け止められずにいた。


こんなに苦しい思いをするのなら、いっそのこと記憶なんて戻らない方が良かった。



神様はなんて酷なことをするんだろう・・・・そう思ったことも何度もあった。




翔太くんから話を聞いて。



逢うか逢わないか、ずごく悩んだ。



だけど、その悩んだことが私が前に踏み出せるキッカケになって、



失われたはずの記憶が戻ったことをずっと悔んでいたけれど、

それには何か理由があるんじゃないか。

私はそう思うようになった。



平成の世に生まれながら、150年も前の時代をこの目で見て、感じてきた。



そんな信じられない体験をしたのはきっと私と翔太くんだけだろう。



教科書には乗っていない事も、間違っていることもたくさんあった。



だけど皆、自分の信念を貫いて、命がけで生きていた。



そこにいた人間にしか分からないことがあった。



だから、私達の記憶が戻ったのは、それを忘れてくれるな。



そう言われている気がした。



私なんかに出来ることなんてたかが知れていると思う。



だけど・・・・



穏やかな面持ちとは裏腹に、内に秘める情熱的は志高く、



己の信念を最期まで貫き通した古高俊太郎という誇り高き志士がいたこと。


決して忘れないように、彼らの想いが朽ちないように、後世に残っていくように。



少しでもその力になれたらいいと思う。



そして・・・・



古高俊太郎というひとを愛し、愛されたこと。



決して忘れない。



今はもう彼とは違う時代を生きているという現実を受け止め、



もう逢うことの出来ない相手だとしても、



彼を尊敬し愛していると、そう笑顔で言えるように。



俊太郎さま達が命がけで繋いだ時代を、恥じないように生きていかなければ。








――――


いつものコースで全ての場所を回った後、



鴨川の納涼床で翔太くんと食事をした。



幕末の頃にも、俊太郎さまに連れて来てもらったことがある。



きっと、今までの私だったら、そんな思い出の場所に訪れたら、涙を浮かべていただろう。



だけど、今の私は違う。



あの頃よりも、少し変わったように見える川の流れに、彼の面影を探しながら。



向かい合って座った翔太くんがにこにこしながらこちらを見つめている。



「な、なに?」



「いや、ごめん。○○、良い顔してるなって思ってさ」



「いい顔?」



「うん、だからぶっちゃけるけどさ。

去年とかもこうして京都にきて一緒に巡っただろう?

その時の○○の表情がさ、今にも泣き出しそうで、こっちが苦しくなるくらい切なくて。

俺、何て声をかけていいかわかんなかった」


翔太くんのそんなに気を遣わせてしまっていたんだと思うと、



申し訳なくて、思わず苦笑いが零れる。



「でも、今の○○の表情。すごく穏やかで優しい顔だよ。仏様みたい」



「なにそれ」



二人で笑いながら、翔太くんにもお礼を言わなくちゃと。



私は彼の正面に向き直った。



「でも、それはきっと翔太くんのお陰。……ありがとう」



「えっ?俺?」



「うん。現代に戻ってきてから……

私ずっと、俊太郎さまがいない現実を受け止めることが出来てなかった。

まだどこかで逢えるんじゃないかって。無理なことだって分かってても、

心のどかではそんな想いがずっと消えなかった。

ずっと幕末から戻ってきた日から前に進めずにいたんだと思う、私。

だから、翔太くんがあの話をしてくれたことがひとつのきっかけになったんだ。

その答えを出すために、ちゃんと向き合えた気がするの。自分と」



「……俺も余計なこと言ったかなって少し後悔してたんだ。でも、それ聞いて安心した」



「うん。本当にありがとう」



「別にお礼なんて言われるほどのことしてないし。

俺は○○が少しでも心が穏やかになれたらって……思った、だけだから……」



そう言いながら、翔太くんはどこか気恥かしそうに、私から川の方へと視線を逸らした。



その表情を見て、今度は私が笑ってしまう。






俊太郎さまは、私にもう一度逢いたいと想ってくれただろうか。



もし、そう想ってくれていたのなら、彼を悲しませてしまったかな。



でもきっと、俊太郎さまは分かってくれると思う。



私が逢わないことを選んだ訳を。



『あんさんのことや。よう分かる』って、から
かい混じりに笑って。



誰よりも、何よりも、私を大切に想ってくれる人だから。



私がいつも元気で、笑顔で、幸せでいることが何よりの幸せだと言う人だから。



私が笑顔でいなくちゃ、俊太郎さまが悲しむ。



それに、私だって分かってる。



いつも俊太郎さまは私の傍にいてくれるって。



姿が見えなくてもそれが分かるから。



逢って言葉を交わさなくても。



二人の心は繋がっていることを感じてる。




今日もどこからともなく漂う彼の香りが、それを教えてくれるから。





<繋〜逢不>おわり☆ミ
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