●○長篇○●

□巡り愛〜誰がために
12ページ/32ページ

【第三幕〜奪る〜】



<其の一>


「自ら火を放つとは、なんと馬鹿なことをしたものじゃ……

翔太、夜が明ける前に京を出るぜよ」



長州兵が藩邸に火を放ったと言う知らせを聞いた龍馬達は、



今後より一層京の警備が強化されることを案じて、京を離れた方がよいと判断した。



「翔太、支度が出来たらすぐに出るぜよ」



慌しく荷物をまとめる龍馬の傍らで、翔太は座ったまま動かない。



「……翔太?どうしたがじゃ?具合でも悪いんか?」


「……龍馬さん……俺……。先に行っててください、後から追いつきますから」




そう言って立ち上がった翔太の腕を掴み、龍馬は引き止める。




「いかんのう、その顔つきは。何やら危険なことを考えちゅう顔をしちょる。

理由を聞かんことには許しは出せん。翔太、一緒に行けん理由を聞かせとうせ」




数秒の沈黙の後、翔太は独り言のように呟いた。



「……助けられるかもしれない」


「助ける……?」


「助けられるとしたら、町中が混乱している今しかない」


「まさか、おまん……古高を助けに行くつもりか!?」


「小さい頃からずっと当たり前みたいに傍にいて、

俺にとって○○は、家族みたいなもんなんだ。○○はどう思ってるか知らないけど……。

あいつが辛い顔してると俺まで苦しくて……○○にはいつでも笑ってて欲しいから。

○○にあんな顔は似合わないんだよ。○○が悲しむ姿、もう見てられない……だから!」


「わかった、おまんの気持ちはようわかった!翔太、わしも行くぜよ!」


「え…」


「翔太も○○もわしの可愛い弟妹じゃ!家族じゃ!やきに、協力するぜよ!

わしも○○には笑顔が一番似合うと思うき!○○を笑顔にするためじゃ!」


「龍馬さん……ありがとうございます!」





――龍馬と翔太は六角獄舎へと向かった。




途中、遊女らしき人の列を見つけ、翔太達は目立たぬように出来るだけ顔を隠してすれ違った。



もしも○○が逃げる人波に逆らうように進む二人に姿に気付けば、必ず声を掛けてくるだろう。



理由を問われれば、翔太も嘘を吐き通す自信がなかった。



今この町中で、妖しい奴と思われれば問答無用斬り捨てられるかもしれない。



そんな危険な場所に○○を連れて行くわけにはいかない。



○○が事の成り行きを知らぬのならば、このまま安全な場所に置いてやりたかった。




二人は出来るだけ目立たぬように人混みに紛れて道を進んだ。




「……お前達、こんなところで何をしている?」




すれ違った人影に、二人はびくりとして足を止める。



「高杉さん!?」


「混乱しているうちに町を出たほうがいいぞ」


「その前にやらにゃいかんことがある」




二人の進む方角と、緊迫した表情から、高杉は勘付く。




「……まさか、あいつを獄舎から奪還するつもりか?」




龍馬と翔太は無言でこくりと頷いた。



翔太を視線で捉え、高杉が問う。



「○○のためか?」


「はい!」



翔太は力強く答えた。



お前は?と言うように、龍馬にも高杉の視線が向けられる。



「○○の笑顔のために、それを守ろうとする翔太のためにじゃ」


「おそらく門番がきっちり張り付いているぞ。そう簡単には破れん」


「それでも、出来ることはしてみたいんです!」




翔太の強い眼差しに、高杉は小さく息を吐いた。



そんなふうに敵に立ち向かい、呆気なく命を落としていった仲間達を想って。



「……わかった。俺が斬り込む。手薄になった隙をつけ」




短く言葉を吐き、くるりと踵を返すと、高杉は獄舎の方へ歩き出す。



僅かに距離を取りながら、龍馬と翔太も後に続いた。




そしてもうひとつ。



獄舎に向かう人影があった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ