●○連続篇○●

□保健室の俊太郎
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<ep〜女疾-シット->



夏休み明けの全校集会。



校長先生の話など誰も聞いてない。


退屈な時間。






私の視線だけが忙しないのは、一ヶ月ぶりに逢う大好きな人の姿を探しているから。



早く逢って声が聞きたい。



そして・・・・・ぎゅっと抱きしめてもらいたい。



膨らむ期待に自然と頬を緩ませながら、



私の頭の中は放課後の保健室の妄想でいっぱいだった。





そこへ・・・・・



――どすんっ



という、鈍く重たい音に私はハッとして我に返る。



二列隣にいた女子生徒が倒れ込んでいる。



暇を持て余していた生徒達の視線が興味津々に一カ所に集まった。




男子生徒「えっ、なになに?」



女子生徒「先生ぇ〜誰か倒れた」




静かな体育館がざわめき始める中、



軽い足音を響かせながら足早にやってきたのは。



ずっと逢いたかった古高先生。




「ごめんな〜通してぇ」




規則正しく並ぶ生徒の列の間を縫って、倒れている女子生徒の元へ。



彼女の傍らに片膝をついてしゃがむと、目の下をくいっと引っ張って。




「貧血やな……」




ひと言そう呟いて、その子をひょいっと抱き上げた。



それだけで周りの女子生徒が潜めた黄色い声を上げる。



先生はそんなことは全く気にしない様子で、その子を抱きかかえたまま、颯爽と体育館を出ていった。





私は独り、胸の中にモヤっとしたものを感じて。



半ば睨みつける勢いで、先生の背中を見送った。





色んな意味でざわめきが治まらない体育館。




女子生徒A「倒れたフリしようかな」



女子生徒B「私も古高先生にお姫様だっこされたいぃ〜」



男子生徒「お前なんか抱え上げたら、先生が潰れる」



女子生徒B「あ?うぜぇーし」




そんな声に私はますます不機嫌になる。



私より先にお姫様だっこなんて・・・・・



ずるい、ずるい、ずるい!!!



あれは保健室の先生としての当たり前の行動。



わかってる。



なのに何故か私は憤慨している。



・・・・・ヤキモチ。



私以外の子に優しくする先生を目の前で見てしまって。



私はヤキモチを妬いたんだ。



それもわかってる。



だけど、それを認めたくなくて。



そんなことでヤキモキする心の小さい自分にも腹が立って。




・・・・・いいもん。



私は先生とちゅうしたもん。



先生がそんなことしてくれるのは私だけだもん。



お姫様だっこなんかよりもちゅうのほうが特別だもん。



心の中で醜い悪態をつきながら、私の唇はどんどんとんがっていって。



集会が終わる頃には、緩んでいた頬はぷうっと膨れ。


口をへの字に曲げ眉間にしわを寄せていた。



今頃あの子は・・・・・。



先生に優しく介抱されてるのかな・・・。



誰にでも分け隔てなく接する先生のことだから。



私にするみたいに。



苦しいだろうって。



ブラウスのボタンを・・・・・




「っ〜〜〜!」



「どないしたん?怖い顔して」




突然背後から声をかけられて、私は飛び上がるほど驚く。




「!!…里花ちゃん」



里花「カッコ良かったな、古高先生」



「……うん」



里花「あ、ヤキモチ妬いとる?」



「!?ち、違うよ……」



里花「恋する乙女も、イケメンが相手やと気苦労が絶えへんのやなぁ?大変やぁ」



「だから違うってばっ!」




一ヶ月ぶりに逢える嬉しさで朝からご機嫌だったはずなのに。



さっきの出来事で、上々だった気分は急降下。



おまけに集会終わりのごった返すトイレに行けば、人だかりが出来ていて・・・




「ねぇねぇどうだった?保健室」



「先生、良い匂いした?」




早々と保健室から戻されたらしい貧血で倒れた子は、


帰ってきたそばから、他の女子生徒にキャッキャッ言われながら質問攻めにあっているし。





そんなこんなで、私は一日をモヤモヤした最悪な気分で過ごす羽目になってしまった。










―――放課後。




人気の少なくなった頃を見計らって、私は保健室に忍び込む。



ゆっくり3回ノックしてからドアを開く。



二人だけの暗黙のルール。



一呼吸置いてからそっと顔だけで覗き込んだ。



目が合うと、にこりと微笑んで大きく両手を広げる先生。



本当は、その胸に走って飛び込んで、ぎゅっとしてほしい。



だけど、いじけ倒した心の中はぷいっとそっぽを向いた。



そのまま先生の横を通り過ぎ、カウンセリング用のソファーにぼよんと座る。




「……ん?なんや、休み明け早々ご機嫌斜めやな」



「……別にっ」




おそらく、先生は私の不機嫌な理由なんてわかっているのだろう。



だからわざと。




「休み中は毎日何しとったん?」




本題とは全く関係のない話をするんだ。



隣じゃなくて、向かい側に座って。



そう思うと、ますます私の心は捻くれて。




「フツーに。……ゴロゴロしてた」




ぶすくれたまま、ぶっきらぼうな言葉を返す。




「一ヶ月ぶりの再会やいうのに、冷たいなぁ……」




ほら、その微笑みだって。



私をからかって楽しんでいる時のもの。




「…………」




そんなふくれっ面で、だんまりを続ける私に先生はくすっと笑って。



立ち上がるとこちらに来て、隣に座るのかと思いきや・・・・




「わっ…」




突然浮いた身体がバランスを崩して、思わず先生の首に腕を回すと、



必然と顔が近くなって、急に恥ずかしくなる。



先生は私をお姫様抱っこをして向かった先のベッドにそのまま腰かけ、


私は膝の上で横向きに座る状態になる。



それでもまだご機嫌斜めな私は、反抗心で先生の膝の上から逃げ出した。



それを楽しそうに笑って見ている先生。




「何でも言うて?あんさんのご機嫌が直るんやったら、わては何でもするよ?」




それならと、私は隣のベッドの上から、そっぽを向いたまま口を尖らせてねだってみた。




「……ぎゅって…して……」




他の子に、優しさでは絶対にしないこと。



私だけにしてくれることをしてくれなきゃ、ご機嫌は直らない。



なのに・・・・。




「ん?何て?」




聞こえてるくせに。



先生はまだ私で遊ぼうとするから。




「っ!もういいです。なんでもないですっ」




せっかく勇気を出して言ったのに。



恥ずかしさでふくれっ面に拍車のかかった私は膝を抱えて顔を埋める。




「…ふっ…」




吹き出したように笑った先生の声が聞こえると・・・・・



シャーと、カーテンを閉める音がする。



夕子先生の件があってから、保健室は厳重体勢。



だから、カーテンを閉めた先の事を期待してしまう私は心音を速める。




目線だけを上げて、ちらりと盗み見てみると・・・・・



先生がカーテンの隙間から顔をのぞかせ私を手招いて。




「……ぎゅっとしたるさかい……おいで……」




先生の”おいで”は魔法の言葉。



どんなにいじけた私の心にも、あっという間に尻尾を振らせてしまう。



誘われるがままカーテンの中に入ると。



強くもなく弱くもない力でむぎゅっと抱きしめてくれる。



その心地よい力加減が嬉しくて、ふっと頬が緩んだ。



だけど、散々弄ばれたことが悔しくて。



私はまだ拗ねたふりをしながら、



抱きしめられた腕の中から先生をじっと見上げ、無言のおねだりを続ける。



すると。




「あんさんは夏休み中に、少ぅし甘えん坊さんになったようやね」


「っ…」




そう言われて、積極的になっている自分に初めて気付いて。



かあっと赤くなった顔を隠そうと、俯きかけた私の顎を先生の長い指が掬って上向かせる。




「そない男を誘う仕草、夏休み中に誰に教えてもろたんや?」




顎を捉えられ、熱を持った頬は先生の視線と言葉にますます赤みを帯びる。




「別に……誰に教わったわけでも……」




視線をさ迷わせながら、あわあわと答える私を見て、先生は妖艶な微笑みを浮かべる。




「わてがあんさんをそうさせる言うことか?……ほんなら……」




すーっと親指が私の唇を撫でて。




「もっと甘えて……」




そう甘く囁く瞳に一瞬危険な色を映した後・・・・



重なった唇に、やっと機嫌が直った私だった。









おわり?☆ミ
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