●○連続篇○●
□保健室の俊太郎
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<ep〜独占>
三年に一度の文化祭。
それぞれのクラスが思い思いの出し物を考え、みんな気合いが入っている。
うちのクラスの出し物はメイドカフェと喫茶店。
さすがに男子がメイドになるわけにはいかないから、
教室の半分を女子たちのメイドカフェにして、もう半分で男子たちは喫茶店をすることになった。
机を合わせ、その上には100均で買ったはぎれをテーブルクロス代わりにして。
カフェでは、コーヒーや紅茶の飲み物に加え、
それぞれが家で作ってきたクッキーやカップケーキなどを出すことにした。
某量販店で購入した黒色のメイド服。
ちょっとだけ恥ずかしさもあるけれど、憧れの衣装を身につけ、カフェと化した教室の前に立つ。
「いらっしゃいませ〜」
「おいしいコーヒーに、お菓子もありますよ〜」
里花ちゃんとクラスメイト二人の四人で、客引きをしながら店番をしていると、
どこからともなく、耳障りな黄色い声の混じったざわめきが耳に届く。
その原因を探して、きょろきょろ視線を巡らせると・・・
「あ……」
キャッキャ言いながら取り囲む女子生徒の中心に、
すらりとした長身のイケメン×2を発見する。
「わかったから、お前ら落ち着け!」
まとわりつく女子生徒を、眉間にしわを寄せ煙たそうにしている高杉先生と・・・
「順番に行くから、待っといて」
形の良い眉を下げ、困り笑顔を浮かべる古高先生。
赴任から一ヶ月もしないうちに、
高杉先生は教師らしからぬその破天荒ぶりが女子生徒の心を鷲掴みにしたようで、
既に古高先生と肩を並べる人気の先生になっていた。
古高先生は相変わらずの人気ぶり。
・・・・あの二人、並んで歩いちゃダメだと思う・・・・
そんな二人に物怖じせず絡みつく女子達の迫力に、唖然としながらそんな事を考えていると、
そのイケメン×2は、私の前で足を止めた。
「おう、○○。来てやったぞ」
「こらまた、かいらしいメイドさんや」
その言葉に周りから悲鳴のような歓声が上がる。
「あはっ……あ、どうぞ……」
精一杯の苦笑いを返して、二人を席に案内する。
その間にも後方から投げかけられる黄色い声。
「先生、絶対来て下さいよ!」
「約束ですからねっ!」
二人が席に着くと、さすがに中まで追ってくることはせず、
群れていた女子達はひとまずこの場を離れてくれた。
やっと平穏の戻ったところで、壁に貼りつけたメニューを指差して、二人に注文を取る。
「飲み物は、コーヒー、紅茶、ココア、オレンジジュースとジンジャーエルです。
それと、サービスでお菓子が付きます」
「俺は、コーヒー」
「わてもコーヒーを貰います」
「お砂糖とミルクはどうしますか?」
高杉先生に視線を送って、コーヒーの好のみを聞く。
「ブラックでいい」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
メイドらしく丁寧な言葉遣いと立ち振る舞いで、その場を去ろうとした時――
「……おい」
呼び止められ、振り返る。
「……はい?」
「なぜコッチには聞かない」
そう言って、高杉先生は古高先生を顎で指す。
「え?……何を?」
言っている意味が理解できなくて、ぽかんとする私に、高杉先生は苛立ったように眉をしかめる。
「コーヒーの好のみだ」
「!」
思ってもみない指摘に、私はどきりとした。
角砂糖なら二つ。
スティックなら一本半。
ミルクはいらない。
放課後の保健室。
古高先生には何度かコーヒーを淹れてあげたことがあったから・・・・
「知っとるもんなぁ?」
三人だけにしか聞こえないような声のトーンで、
頬杖を付いた状態の古高先生に意味ありげな視線を送られ、
どくんと心臓が大きく脈打った後、かあっと顔が熱くなっていくのを自覚する。
それに高杉先生の眉間のシワが一層深まる。
「まあ、今日で俺の好のみも知ったわけだ。これで互角だ。ひとまずよしとしよう」
「…ふっ、負け犬の遠吠えやな」
それを古高先生は余裕たっぷりにあしらう。
いい大人なのに、まるで高校生のような二人のやり取りに、
私はいつしか恥ずかしさも忘れ、思わず笑みが零してしまう。
「何を笑っている、早くしろ。客を待たせるな」
「すみませーん」
すっかりいじけてしまった様子の高杉先生に急かされて、
調理場に見立てた、つい立ての後ろで二人のコーヒーを用意する。
物はインスタントだけど、愛情だけはたっぷり込めようと、
くるくるコーヒーを掻き回す私の耳元で里花ちゃんが囁く。
「高杉先生カッコええなぁ」
「……う、うん……」
ぎこちない返事をした私に、里花ちゃんはわざとらしく息を呑む素振りを見せ、
「ああごめん、同意を求める相手を間違えたわ」
そう言って、逆サイドにいた子に話題を振り直す。
「あ、ちょ…」
・・・確かに。高杉先生も素敵だと思うけど・・・
・・・やっぱり私は・・・
そこまで考えて、勝手に独りで恥ずかしくなった思考を振り払いながら、
昨晩、家で焼いたクッキーも一緒にトレイに乗せ、二人の元へ運ぶ。
「お待たせいたしました」
「おお、なかなか上等じゃないか」
「そのクッキーは、あんさんの手作り?」
「はい!昨日家で焼いたんです」
言いながらテーブルにクッキーを乗せたお皿を置いた瞬間、
二人の手が同時に伸びて、奪い合うようにクッキーを頬張る、大の大人×2。
・・・やっぱり高校生みたい・・・・
心の中で呟きながらくすくす笑っていると、また高杉先生の鋭い視線に射抜かれる。
「!…すみません」
「メイドさ〜ん」
「はーい!……ちょっと失礼します」
他のお客さんから声が掛り、私は一旦二人の席を離れた。
「一緒に写真いい?」
注文がてら男子生徒に記念撮影を頼まれ、
彼らとは普段から見知った仲でもあったため、特に悪い気もせず、私は素直に応じる。
すると、それを見てた隣の席の男子にも声を掛けられ、ちょっとした撮影会になってしまった。
そこに注がれる高校生相手に敵意剥き出しの視線に気づくこともなく。
私は写真撮影を終えると、注文の準備に取り掛かった。
――と、廊下の方がまた騒がしくなってきたことに気付く。
「ああ!いたっ!まだこんなところにいたんですかぁ?」
「うちにも来て下さいよ〜」
痺れを切らした女子たちがあちこち探し回っていたらしい。
そうして、イケメン×2はあっという間に連れ去られて行ってしまった。
・・・・古高先生とあんまりお話出来なかったな・・・・
・・・まあ、いっか。放課後は保健室に行く約束だし・・・・
そんなふうに、放課後の古高先生と二人きりの時間を楽しみにしていたから、
騒ぎたてる女子達にもヤキモチを妬くことはなく、私は文化祭を楽しんでいた。
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