●○連続篇○●

□保健室の俊太郎
3ページ/21ページ

<続・保健室の俊太郎>



プルルル プルルル




「……はい」




「お、古高先生がか?」




「坂本先生どすか?」




「おう!うちの○○はどうしちゅう」




「………………」




「……?古高先生?」




「……今は気持ち良さそうに寝てはります」




「もう授業も終わったき、

わしが家まで送っていってやろうかと思うんじゃが……」




「…いや、熱出して体もしんどいやろうし、今起こすのは可哀そうや。

もう少し休めば体も大分楽になると思います。

そやし、後はわてに任せてもらえまへんか?」




「ほうか、ほうか。ほいたら後は先生に任せてもええがか?」




「はい」




「じゃあ、宜しく頼むぜよ〜」





ガチャ












「…………うちの……?」














「わてのや」












――




「……んっ」



再び目を開けると、部屋はオレンジ色に染まっていた。




・・・あれ?



もしかして、夕方になっちゃった?



あれから私はまた眠ってしまったようだ。



お陰で熱は大分下がったみたい。




まだ少し気怠るさの残る体をそっとベッドから起こす。




すると・・・



僅かに空いていたカーテンの隙間に人影が見えた。





寝起きの目をこすりながら、よく見てみると・・・・・・





「……ぁ……」





そこには、椅子に腰かけ、机に片肘をつきながら、



どこか麗しげな表情の、夕焼け色に染まった古高先生が見えた。



まだ夢の中にいるのかと錯覚するほどの、



息をのむようなその美しさに、暫くの間、見惚れてしまう。




・・・すると、視線を感じたのか、



遠くを見つめていた瞳がこちらへ向けられ・・・・




「……!!!」




ばちっと目が合って、



悪事が見つかった時のように、心臓がどきんと跳ね上がる。




すると、彼はふっと表情を和らげて、こちらへ向かってきた。




「……気分はどう?」



「…あっ、えっ、あの……」



動揺して上手く言葉が出てこない私の額に手を当て・・・



「……うん」



再度確認するように、先生の大きな手が私の頬を包み込む。



「もう熱はないみたいやね」



それだけで再び熱が上がってしまいそうだった。




「カラダ、まだしんどいやろう?

もう日も暮れてきたし、わてが家まで送ったります」



「……え?」



「荷物、取ってきたら、職員室においで」



そう言い残して、先生は先に保健室を出て行ってしまった。





――




私は言われた通り、教室にカバンを取りに行き、職員室へと向かう。




「……失礼しまぁす……」




中を覗くと、先生も荷物をまとめて帰る準備をしていた。




そのまま彼の傍まで行ってみると、



机の上に、綺麗にラッピングされた箱が一つ置かれていた。




・・・・プレゼント・・・・?




「……ああ、今日、誕生日なんや」



「えっ!?」



「お返しもできひんし、毎年受け取れへんて言うとるんやけどなぁ」




見るつもりはなかったけど、目に入ってしまった、



添えられたメッセージカードには・・・・・




『お誕生日おめでとうございます 夕子』




夕子・・・・・




朝霧 夕子(あさぎり ゆうこ)



音楽担当の先生だ。



あの先生・・・・ちょっと苦手なんだよね・・・。



何故かわからないけど・・・



私を見る視線に、刺さるような冷たさを感じる時がある。




古高先生は苦笑しながら、そのプレゼントを、



夕子先生の椅子と机の間に隠すようにして置いた。





・・・そうだよね・・・



他の女の人からプレゼントなんか貰ったら、



彼女に怒られちゃうもんね・・・・・・・。




あ・・・




誕生日って事は・・・きっとこの後予定があるはず・・・・・。



私に構っている時間なんか・・・・。




「…ごめんなさい先生、お誕生日なのに…。

やっぱり私、一人で帰れます」



「病み上がりの子ぉを、一人で帰すわけにはいかへん」



「…でも…この後…デート…とか……」



「誕生日にデート……そないなこと何年もしてへんなあ……」



「……」




・・・・・彼女・・・・・いないんだ・・・・・・




「忘れもんはない?」



「……えっ?は、はい」



「ほんなら、先に乗ってて」



そう言って、先生は私に車のキーを手渡す。




ただそれだけのことなのに・・・・



何故か鼓動が速まった。







――



駐車場へ行くと、車は一台だけだった。




ロック解除のボタンを押すと、ウインカーランプがピカッと光る。



その光と同じように、一瞬私の心臓もドキッと跳ね上がった。




少し緊張気味に助手席のドアに手をかけて・・・・・




・・・・・・違うよね。




そう思って、私は後部座席に乗り込んだ。





間もなくして、先生が運転席のドアを開ける。



だけど、私が後部座席に座っているのをちらりと確認して、



再びドアを閉めたかと思ったら、



すぐさま私の座る右側のドアが開いて、彼が乗り込んできた。



「!?」



「……なんで?」



「えっ?」



「なんで後ろなん?」



「…いや…だって……」



「つれないなあ……知っとるくせに」



「……?」



「他の子ぉとは扱いが違う。……気付いてはるやろ?」



「…………」




この時の私は、自分の気持ちに、まだ気付かないふりをしていた。




・・・・どうせ叶わぬ恋だから・・・・




自分の気持ちを認めて、傷つくのが怖かったのかもしれない。




「……今日、わての誕生日なんや」



「……はい、さっき知りました」



「誕生日プレゼント……貰うてもええ?」



「……はっ?」



次の瞬間、



彼は私の座っている側の窓に、どん、と片手をついて、



覆いかぶさるようにこちらを見下ろす。




「あかんことなんは知っとる……せやけど……」




さっきブラウスのボタンに手をかけられた時と同じ瞳・・・・・・




「今日はもう我慢でけへん……」




その瞳に捉えられただけで、



再び私は、心も体も自由を奪われてしまう。




すると突然、



唇に柔らかい熱を感じて、私は驚きに限界まで目を見開いた。




初めての感触に、頭の中が真っ白になって、硬直していると、



彼はゆっくりと唇を離し、ふわりと微笑む。




「…キスする時は、目ぇ閉じるんやで」




頭の中が混乱して何を言われているのかもわからず、



あたふたする私の瞼を、彼はそっと唇で触れる。




反射的に目を瞑ってしまうと、すかさず唇を塞がれた。




「ん…………っ…はっ」




息が苦しくなってきた絶妙のタイミングで唇が離され、



その隙間で必死に息継ぎをすると、



僅かに開いたそこを狙っていたかのように、何かが挿し込まれる。




「んんっ!?!?」




また新しい感触に驚いて、たまらず逃げようとしても、



先生とドアに挟まれて、身動きできない。




「…ん」




思わず助けを求めるように彼のワイシャツを掴むと、



その手を掴んだ彼の指先が、



私の指の間を厭らし動きで絡め取っていく。




背骨が溶けてしまいそうなゾクゾクとした感覚・・・



温かく柔らかな唇の感触・・・



口内を這い回る自分のものじゃない舌先・・・・・



艶めかしく、しなやかに絡みつく彼の指先・・・・




全てが初めてで、もう何が何だか分からない。



私は彼にされるがまま・・・・・・。





――よやく彼の唇から解放された頃には、



完全に体の力が抜け、シートに背を預けぐったりとしていた。



最後に啄むようなキスをひとつ落とし、



放心状態の私に、彼の低い声が呟く。




「これ以上したら止まらんくなる……。

今はまだ……生徒を優しく介抱する保健室の先生でいまひょ」




その声も遠く聞こえるような、まだ呆然とする中、



私は必死に荒い息を整える。




「あんさんのファーストキス。貰うてしもうたね」




あげたというより奪われた感じだけど・・・・・



でも・・・・全然嫌じゃなかった。



ファーストキスは甘酸っぱいなんて、よく表現される。



だけど、彼との初めてのキスは・・・



身も心も蕩けてしまいそうなくらい・・・



ただただ、甘かった。





「ええ誕生日プレゼントになった。おおきに」




そう言って、先生はくすくすと楽しげな笑みを零しながら、



運転席に戻り、エンジンをかけ、



何事もなかったかのように、私を家まで送り届けてくれた。



おわり?☆ミ
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ