●○連続篇○●

□保健室の俊太郎
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<ep〜暑中見舞い>



炎天下のもと、



額には、じわりと汗を滲ませ、



背中には、滴る汗が伝う。




うちの高校では、



梅雨入り前のこの時期に体育祭が行われる。




くじ引きでその実行委員になってしまった



私と里花(さとか)ちゃんは、



校庭のライン引きを任されていた。





いつもならこの時期は過ごしやすくて、



スポーツをするには最適の気候だったのに・・・・・



今年は異常気象なのか、



6月だというのに30度を越える熱さ・・・・。





今日は午後から先生方の勉強会があるとかで、


大半の先生がいなくなってしまうから、


午前中で授業は終わりだった。


それで今は残った先生方と、



生徒達で明日の体育祭の準備をしてるところだ。







・・・滝のような汗が、次々と吹き出してくる。




下着が透けないようにと、



薄いブラウスの下に着ていたキャミソールも、



汗を吸い込んで気持ち悪い。






「終わったら保健室にでも涼みに行こか。

今日なら先生も少ないし、許可なしで忍び込んでもバレへんで」




「……う、うん…」




にやり笑いを浮かべてそう言う彼女に、



自然と緩んでしまう顔を背けるようにしながら返事を返す。




里花ちゃんは、一番仲良しの親友で。



古高先生と同じく京都から東京へ来た子で。



中学生の時に、お父さんの仕事の都合で上京してきたらしい。




そして、私と古高先生の仲も彼女にだけは話していた。



だから、



こうしてノリの良い関西弁で、彼女にはよくからかわれる。





「今頃、みんなは涼しい部屋で、アイスでも食うてるんやで〜

なのにうちらは……」




「6月だっていうのに、暑過ぎだよね……」




二人でぶつぶつ文句を言いながらも、



なんとか図面通りの校庭の白線を完成させ頃、





・・・・何だか少し頭が痛いな・・・・・





私は、体の異変を感じていた。





そして、早く涼しい所へ行こうと、



道具を片付けに体育倉庫に入った途端・・・・




・・・・っ!?・・・・・




突然目眩がして、私はその場に座り込んでしまった。




「……!○○ちゃん、どないしたん?」



「…っ…」




里花ちゃんがすぐに駆け寄ってきて、



声をかけてくれたけれど・・・。




「○○ちゃん!大丈夫?…しっかり…て……

……せん…い…呼ん…る………」






彼女の声がだんだん遠のいていって――――














―――。






・・・・あれ・・・・?




・・・・ここは・・・・・保健室・・・・?




・・・・私、なんでここに・・・・・




・・・・体育祭の準備をしてたはずなのに・・・・・





・・・今日は凄く暑くて・・・・・




・・・・頭が痛くなって・・・・・・




・・・・・倉庫で、里花ちゃんが・・・・・・





あ・・・・。





・・・・・もしかして・・・・私倒れちゃったの・・・・?





ぼんやりとする頭で、やっとこの状況を理解した私は、



徐々にはっきりとしていく意識の中、いくつかの違和感に気付いた。






滴るほどの汗で、べたべただった肌の不快感が



全くなくなっていること。



体を起こすことすら辛くて、ベッドに横たわりながら、



ちらりと視界に映ったのは・・・・・・・制服じゃない。



パジャマのようなものを着ていた。





もちろん、私は今の今まで意識を失っていたのだ。



自分で着替えられる訳などない・・・・・。








ここは保健室。









・・・・・・となると、思い当たることは一つ。












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。










「……え゛ぇえっ!?」








頭に浮かんだ一つの答えに、



思わず野太い悲鳴をあげてしまった。





その声に気付いた彼が、



閉まってたカーテンを僅かに開いて、ちらりと顔を覗かせた。





「……気付かはった?」





「…………」




あまりの衝撃に言葉が出てこない。




だけど、咄嗟に頭に浮かんだのは・・・・・




・・・・ワキ毛・・・処理してたっけ・・・?



・・・今日のブラは・・・・ピンク!



・・・・ベージュとか色気のないものじゃなくてよかった・・・・・・




そんなことだった。





あたふたする私をよそに、先生はいつもとなんら変わらぬ様子で、



私の寝ているベッドの端に腰をかけた。




「軽い熱中症やね」



「……熱中症……」



「熱もそこまで高くなかったし・・・・

体冷やして、水分補給をしておけば、時機に良うなるやろう」





・・・・やっぱり私、倒れちゃったんだ・・・・・









「……はい」




そう言って先生が私の口元にストローを差し出す。



体を起こすのも辛いだろうからと、



横になったままでも水分補給ができるように、



ペットボトルのスポーツドリンクにストローを差して、



先生が飲ませてくれる。




酷く喉が渇いていたせいで、



ごくごくと喉を鳴らしながらイッキに飲もうとする私を見て、彼が笑う。




「そない急いで飲まんと、ゆっくり少しずつ飲んだらええのに……」




子どもみたいな行動を指摘されて、



恥ずかしくなって、視線を下げて・・・・・・・・



思い出した。





「あっ……あの……」



「なに?」



「…これ…」




パジャマの襟元を掴んで、彼の顔を窺う。




「ああ。汗でぐっしょりやったからね。

そのままにしといたら今度は風邪を引いてしまう。

せやから、体拭いて、着替えさせてもらったよ」







「……誰が……?」








「…………」




彼は言葉にはせず、にこっと綺麗な笑みを浮かべるだけだった。





無言の肯定に、



心臓が痛いくらいに跳ね上がり、一気に頬に熱が集まる。





・・・・・先生が・・・・・?



・・・・私のブラウスのボタンを外して・・・・・・?



・・・・その手が・・・・タオル越しとはいえ・・・・・・



・・・・私の体を撫でた・・・・・?





その過程を想像するだけで、恥ずかし過ぎて・・・





「……風邪引いたほうがマシだった……」




真っ赤な顔を隠すように、



薄手のタオルケットを鼻まで被り、彼に批難の目を向ける。





「……犯罪ですよ。それ……」




「……?何のことどすか?わては何も言うてへんけど?」




「…っ」




「はい」




文句を言おうと、



勢いよくタオルケットを剥いで、口を開きかけた瞬間、



再び口元にストローが差し出され、



私は反射的に目の前のストローに吸いついてしまう。




眉間にしわを寄せながらも



大人しくちゅうちゅうと飲み物を吸い上げる私を見て、



先生がまたくすくす笑う。






・・・・・ついに見られてしまった・・・・・





・・・・だけど・・・・・





・・・・・古高先生なら・・・・・・







そんな私の心を逆撫でするように・・・・・



彼が口を開く。





「…………ピンクもかいらしゅうてええけど……」




「……?」




「……わては白の方が好きやな」





「!!!」





「はい」





「…………」




そうしてまた私は、



目の前のストローに吸いついてしまうのだった。





おわり☆ミ
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