浦島花子の徒然なるままに2

□52:手紙
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「名無しちゃん、ちょっといいかな?」



屯所にて土方さんに頼まれた事務仕事をこなしていると、とある隊士がやってきた


『あぁ、良いですよ、今は土方さんも出かけているし』
「いつも悪いね」

と手渡されたのは一通の手紙。


この時代、字の読み書きが出来ない人は珍しくない。
真選組でも、かろうじて名前が書けるくらいで手紙の類は読めない人がいる。そんな時は、他の人を頼っているのだ。


この隊士に届くのは故郷に残した彼女からの手紙。他の隊士には見られたくないらしく、いつもこうして私の所にくる。
毎度ながら、私が手紙を広げている間から、正座してソワソワする姿がなんとも可愛らしい。


『あーぁ。手紙読んだり、代筆するのは良いんだけどさぁ。アナタの場合、内容がラブラブだから妬けるんだよねぇ』
「まぁまぁ、いいじゃないの!俺にはこれしか楽しみが無いんだから頼む!」

『えーと、
“お元気ですか。真選組の一員として、日々ご活躍されていることと存じます。
こちらでは丁度、彼岸花が咲きはじめました。こうして彼岸が訪れる度、あなたを見送ったあの日のことが思い出されます”』


あぁ、もうお彼岸か。


「はは・・・なんだか恥ずかしいな」


照れる隊士。こなくそ!意地悪したくなるわ


『うげー。続き読むのやめようかな。独り身には辛い・・・』
「えぇっ!今度アイス奢るから頼む!お願いっ!」
『はいはい。じゃぁ続きいくよ。
“あなたが江戸へ経ってもう何年経つでしょうか。月日が巡るのは早いもので、私ももう24歳になります・・・”』




これは・・・



「・・・?どうしたの?」
『・・・』



・・・どうしよう
この続きを伝えるべきか、止めるべきか、嘘言うべきか・・・。

でも、ここで止めてどうなる?嘘言ってどうする?



『“先日、見合いをしました。次の春に結婚します。
あなたの帰りをお待ち申し上げると言ったお約束を、果たせずに申し訳ありません。
厚かましいお願いではありますが、どうか遠く離れた江戸から、祝福してください”』

一気に読み上げた。



『・・・』
「・・・」



固まる隊士に何か声をかけなくては。


『あの・・・返事出すなら、最優先で代筆するよ』
「・・・あはは!!俺、振られちまった!」


あっけらかんと笑って話す隊士。


「いつも仕事優先で全然故郷にも帰ってないから、愛想尽かされたんだな。
俺、こうして彼女と手紙をやり取りしているだけで、気持ちが繋がっていると思い込んでいた。安心していたんだな。
俺はアイツの気持ちなんて考えずに、怠慢こいてた・・・バカ者だ」


あぁ、本当にバカ者だ。
どんなに明るい声で話しても、どんなに口元が笑っていても、声が震えていては泣いているのがバレバレだ。



「俺の故郷じゃさ、女は24にもなればとっくに嫁に行っている。
それでも俺を信じて今まで独り身でいてくれたんだ。
きっと、色々と肩身の狭い思いもしただろうに。悪いことをしてしまった」


あぁ、いわゆる“行き遅れ”ってやつか。

私はその言葉、好きじゃない。
人にはそれぞれタイミングってものがあるんだよバカヤロー


「名無しちゃん、今まで応援してくれてありがとう」
『は?応援なんてしたつもりない。それにこれで終わらせるつもりもない』
「え?」
『アナタはこれで終わっていいの?』
「・・・いいんだ。この方が彼女も幸せになれる。
それに、これは彼女自身で考えて出した結論。今更、俺が出て行ったところで迷惑なだけだろう」

『ふーん。真選組にも聞き分けの良い人がいるんだね。まぁ、私には関係ないことだけど。

そういえば、前の手紙で彼女のお父さんが具合悪くしたって書いてあったよね。
おおかた、家の都合で嫁に行くことになったんだろうね。家族思いの良い人だね。』

「・・・そう、良い子なんだ」


未練タラタラじゃないか。


『彼女が今までアナタを待っていたのは、あなたのことが好きだからでしょ?
何が幸せかなんて、私にはわからないけどさ、私だったらやっぱり好きでもない人と一緒になるよりは、
好きな人と一緒に居たいと思うよ。単純に。』
「・・・俺だって・・・俺だって!彼女と一緒に居たいよ!」

『じゃぁ会いに行けば?今から』
「今から?今夜、討ち入りがあるんだけど」
『バカ!そうやって仕事優先で彼女を放っておいたからこうなってるんでしょ!
討ち入りの方は私がなんとかするから、すぐに故郷へ帰れコノヤロー!』



即刻、隊士に荷造りさせて故郷へ送りだした。
あとは検討を祈るばかり。

じゃなかった。今夜の討ち入りの件をどうにかせねば。

確か彼は十番隊だったな。隊長は原田さんか。・・・よし!
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