浦島花子の徒然なるままに2
□67:新年に願いましては
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(終始、銀時視点)
『あけましておめでとうー!』
「はいはい、おめでとうおめでとう」
『銀ちゃん、ノリが悪い』
そりゃそうだろう、何回おめでとうを言えば気が済むんだお前は。
この歳になったら一年なんてあっという間。
正月なんてついこの間も来たばっかりだし、ガキどもにはお年玉をせびられるし、何にもおめでたくなんてありゃしない。
それなのに名無しは朝から事あるごとにおめでとうを連呼している。
“おはよう”の代わりに“あけましておめでとう”、
“いただきます”の代わりに“あけましておめでとう”
テメェは壊れたボイスレコーダーか。
名無しとはガキの頃から何度も年を越してきたが、こんなにテンションが高い正月は初めてだ。
まぁ…それもそうだろう。
名無しは攘夷戦争時代から10年の年月をすっ飛ばしている。
コイツの時間軸では、去年の暮はまだゲリラ戦の真っ只中。正月らしい正月なんてここ何年も無かったのだ。
それが今年は、しめ飾りつけたり、おせち料理作ったり、テレビの特番を観たりと、この上なく平和に過ごしている。
恐らく、こうやって家族揃ってコタツで身を寄せ合って年越しができたことを喜んでいるのだろう。
それならば、このウザったいおめでとうの連呼も正月の三が日くらいは我慢してやろうと思う。
思えば、あの頃名無しが諦めていたのは正月だけじゃない。
当時の名無しは男勝りの戦いっぷりばかりが目について、年頃の娘らしいことなんて何にもしていなかった。
時代が時代だったし、名無しが自ら選んだことだから仕方ないと言えばそれまでだが、やっぱり名無しも女。
着飾ってみたり女子トークしたり、そんなんが楽しいらしい。
だから俺は、タンスを名無しに占領されようが、俺を置いて女子だけでケーキ屋に行こうが、口を出さないことにしている。
そう…俺が久々にパチンコで大勝した金が名無しと神楽の晴れ着に消えたとしても、俺はもう何も言うまい。
まぁ、家の中が明るくなったし、神楽も洒落こんで喜んでいるし、たまにはこんなのも良いかと許してしまうのは、やはり正月のせいなのだろうか。
“あけましておめでとうございます”
『おめでとうございます!』
「銀ちゃん、名無しちゃんがついにテレビの向こう側の人にまでおめでとうを言い出したアル」
にしてもテンション高過ぎ。明らかにおかしいだろ。コイツは恐らく、バカになりきって何か誤魔化そうとしているに違いない。
『銀ちゃん!結野アナが出るよ!』
「マジか?!」
“新年あけましておめでとうございます”
「『おめでとうございます!』」
「お前ら揃って馬鹿アル」
ガラッ
「おはようございます」
『新八ぃ!あけましておめでとうー!』
「おめでとうございます。珍しく朝からテンション高いですね」
『えへへー。あれ?妙ちゃんは?』
今日はこれから、志村家と坂田家で初詣に行く。
「姉上は勤務先に顔出してから来るそうです。あ、銀さんコレ、年賀状きてますよ」
「また来たか」
「正月ですからね。そりゃ来ますよ」
「私にもきてるアルか?!」
志村姉を待つ間、皆で年賀状をチェック。
『銀ちゃん宛ばっかりだね』
「依頼人からだな」
『ふーん。神楽ちゃんにもきてる?』
「そよちゃんから来たアル」
『いいねぇ。新八は?』
「僕のは家に届いていましたね。寺子屋時代の友達からですけど」
『ふーん』
名無しは年賀状の束をペラペラめくるとそのままテーブルの上に戻した。
『小腹が空いた。何か探して来よう』
あ、自分にだけ来ないから不貞腐れた。
だってお前、誰にも出してないだろ…っていうか出せる相手が居ないのか。
近況を伝えあう旧友なんて殆ど残っていないし、いてもヅラとか高杉とか住所不定なヤツしかいないものな。
他は、毎日のように顔を合わせている奴らばかりだし。
こればっかりはどうしようもないが、一応、名無しの様子を見に台所へ行く。