短編集
□ごちゃまぜの食卓
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大きな屋敷の広々としたダイニング。
長い食卓には何脚もの椅子がズラリと並ぶが、そこに座るのはいつだって独り。
メイドたちがピカピカに磨き上げた食器に、
お抱えの料理人が料理を盛り付ける。
沢山の料理に取り囲まれ、
お腹はいつでも満杯に出来たけど、からだのどこかは常に空っぽだった
今日も食卓につき、
『また一人』
と溜息をつく。
そうだ、出かけよう。
万事屋へ。
*
ピンポーン
とインターホンを鳴らせば
「うぉおおお!今日の夕飯が来たぞ!」
と、万事屋の三人は大喜びで迎えてくれる。
一人が嫌なら人を雇えば良い。簡単な話だ。
ここの従業員は常に腹を空かせているから、報酬として食材を提供すれば、喜んで同じ食卓に入れてくれる。
『この狭い部屋と小さな食卓が妙に落ち着くのよね』
「一言多いんだよ。この資産家令嬢が」
不貞腐れた銀ちゃんにも
『ハイこれ、今日の報酬』
と風呂敷包みを渡せばニタリと笑う。
結び目を解いた新八くんが中身を見てポツリ。
「銀さん、見たこと無い食材ばっかりですよ…これまた高級なヤツなんじゃ…」
「名無しちゃん、これどうやって料理するアルか?」
『え、知らない。私、料理なんてしたことないし。うちのキッチンから持ってきたから、普段食べているのだろうけど…調理後の姿しか見たことが無い』
「…」
「…」
「…」
『…』
「今日も鍋だな」
「そうですね」
こうして鍋になるのは毎度の事。
「何だかよく分からない食材は、鍋にブッ込めばどうにかなる」らしい。
今ではもう慣れた鍋料理だけれど、最初は驚いたものだ。
だって、全部の材料が一緒くたに煮込まれているんだよ?
カセットコンロに乗った土鍋の中、
肉も野菜も魚も、それぞれ素晴らしい料理に昇華出来る素質があるのに、ゴチャ混ぜにして、ただ煮るだけなんて。
手抜きじゃないの?
何より信じられなかったのは皆で同じ鍋の物を食べること。
どうして一人分ずつ作らないのかと混乱していたら、
「一人前の鍋もありますけど、こうやって皆でつつき合うのが鍋の醍醐味なんですよ。」
と新八君が教えてくれた。
未知の料理、鍋。
ただの手抜き料理が美味しいはずなどない、と半信半疑で食べた。
今ではすっかり鍋の虜だ。
「そろそろ煮えてきましたよ」
『新八くん。私の分、取り分けてくださる?』
「食卓は戦場」という坂田家の勢いに気圧されて、未だに自分で箸を伸ばせない私は、
今日も鍋から漂ってくる良い香りにワクワクしながら、新八君が取り分けてくれるのを待つ。