排球部と
□きみを守るのも傷つけるのも他の誰かで
1ページ/1ページ
ある昼休み。
俺が体育館の裏でうたた寝をしていると。
「翔陽!」
俺の大好きな、可愛くて元気な声が、俺を呼んだ。
俺が顔を上げると、紫歩は満面の笑みで立っていた。
「どうしたんだ紫歩?」
俺の問いに、紫歩はこれまた満面の笑みで俺に言った。
「私ね、影山くんと付き合うことになったんだ〜!」
その瞬間、俺の心に、大きな石みたいなものが詰め込まれたように、息ができなかった。
こんな時でも、幼なじみという存在は、笑顔で、祝福しなければならないというのは、馬鹿な俺でも分かり切っていることだった。
その相手が、どんなに心から想っている相手でも。
「そっか! よかったじゃん!」
「えへへ、ありがと! この事言うの、翔陽だけなんだよ! 翔陽は私の大事な幼なじみだもんね!」
こんな所で、特別扱いするなよ。
余計に、虚しくなるから。
こんな所で、幼なじみを強調するなよ。
余計に、悲しくなるから。
他の人に言わないんなら、どうして俺に言うんだよ。
───────それが、幼なじみの使命だということも、痛い程に理解した。
「そっか。幸せにな、紫歩!」
俺は、無理矢理な笑顔で、恋を祝福する。
きみは、心からの笑顔で、恋を祝福される。
「ありがと、翔陽!」
そう言って走り去っていった紫歩の背中が、変に遠く見えた。
もうこれからは、俺に頼ることもなくなる。
俺は、紫歩を守ることも、傷つけることもできない。
だって、既にもうその使命は俺から影山にバトンパスされているから。
「───────バイバイ。」
俺の恋心に。
きみを守るのも傷つけるのも他の誰かで、
俺を守るのも傷つけるのも他の誰か、
と言う引き裂かれた運命なら。
それに素直に生きよう。
俺は、目尻に微かにたまった涙を、制服の裾でゴシゴシとこすった。
*
排球部とへ