05/04の日記

20:55
エステル
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オチがよくわからぬ

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幼少期、今でも覚えている記憶がある。

「…君、誰だい?」

裂け谷の、誰も来ないような場所

きっとここのエルフでさえ、ずっと昔に忘れているであろう場所

降り注ぐ陽の光でさえ、鬱蒼と茂る木々に遮られる場所

ちょこん、と石碑の上に、その子は座っていた

キラキラと一筋の光が差し込み、幻想的な景色だった

「…この谷のエルフかい?」

こちらをじっと見る瞳はガラスのように透き通っている

問いかけを二度にわたって試みたが、相手の返事はなし

逃げた方がいいのか、それとも会話をこのまま試みるべきか

「僕は…エステル。君は?」

一歩、そっと彼女に近寄る

逃げないでいてほしい、そう思いながら

彼女の目の前まで、やってきた

「君…生きているの?」

恐る恐る尋ねる僕の様子がおかしかったのか、ふ、と彼女は笑みを浮かべた

その笑みを見て、彼女が人ではなく、そしてエルフでもないことが、何故だかわかった

「もしかして…」

マイア、精霊、姿を持たぬ者

口にしようとした時、ざぁ、と強い風が吹き、エステルは思わず目を瞑った

目を開けた時には、目の前の彼女はどこにもおらず

「…夢でも、見たの?」


誰に言うでもなく、このことは自分の胸の中にだけ留めておこう

そう思い、石碑を後にした


あれから何度かあの場所に行こうと思い、探してみたが、とうとう同じ場所、同じ子どもに出会うことはなかった




『エステル』

あれから百数年。

今際の際、エレスサール王は懐かしい顔を見た

『貴方を彼の地まで無事に送るのが、私の使命』

差し出された手を握り、そうしてエレスサール王はこの地から去った

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